新たな出会い

「……なんだぁ唐突に」


声のトーンが少しだけ下がったのを、いつだって聞き逃さない。
そうなることを承知の上で、私は聞いたのだ。
……ボスが……ザンザスが、どんな人だったのかを。


「スクも知ってるでしょ。私がまだ幼い頃にあの人は……」


そこまで言って私は口を噤む。
この先の出来事を私の口から言うには重すぎた。
そして何より、スクはもう何があったのかを……私より知っている。
話で聞いただけの私と違って、スクは当事者だったのだから。


「……ひでぇ横暴な奴だったぞぉ」


そう呟くスク。
なんとなく胸の中の鉛が、取れた気がした。
目を閉じればいつだって思い出す、私の思い出の中であの人は
あの人は、どうしても優しいままだった。


「……そう」


ザンザスがまだ無事だったころの思い出は私にはあまりない。
幼すぎたせいで、記憶も曖昧なのだ。
覚えていることといえば皆に拾われた日……あれは、忘れるには流石に強烈過ぎた。
そして、ザンザスの……あの、温かい手。

それだけ、だった。


「っつか雪ィ、とっとと支度しろぉ! 今日は新しいやつが来るっつってただろうがぁ゛!」
「そっか、なんかボンゴレ9代目からだっけ?」
「ったく、面倒くせぇえ゛!」


それに関しては私も同感。
親代わりだったボスを氷漬けにされたというのに、何故私らが9代目からの客を丁重に扱わなければいけないのだろうか。
何故私らは今でもまだ、9代目とかかわりを持っているのだろうか。
それもすべて、「ボンゴレ直属」という一言で片づけられてしまうのだけれど。

その後スクを部屋から蹴りだして、支度を済ませた。
いつもの白のワンピースを身につけ、歯磨きと洗顔を終わらせ自室を出る。
そのままみんながいるであろうリビングに足を向けた。


「……?」


いつもより騒がしい。あの、新しいやつとかいう人だろうか。
リビングのほうではひっきりなしに、誰かの話し声が響いてた。
時折スクの叫び声すら聞こえる。

私は遠慮がちにリビングの扉を開ける。
気配に鋭いヴァリアーのみんなが私の入室に気付かないほど、「お客さん」に集中しているのが見えた。


「……ベル、どういう状況?」


とりあえず私は一番近くに立っていたベルに語り掛ける。
私に気付いた様子のベルが、面倒くさそうに腰に手を当てながら質問に答えた。


「9代目からの客。マジ面倒くせぇ……ししっ」


小さく悪そうな笑みを浮かべるベル。
何をたくらんでいるのかはあえて聞かないことにする。
聞いたところで聞いただけ無駄だということが、経験から痛いほど理解している。

改めてリビングの中央……騒ぎの渦中を見てみれば、そこには藍色の少女。
年は私と同じくらいだろうか。
だが、真っ黒なシャツとズボンというラフな格好に身を包んでいて、面倒くさそうに髪を掻いていた。
ヴァリアーのみんなの言葉に、流暢なイタリア語で返している。


「……貴女が、9代目の言ってたお客さん?」
「あー……? ……うん」


私を見て驚いたように、少女は目を見開く。
瞳は、髪色と同じように深い青で、それは夜になりかけの青さを連想させた。
肩にまで伸ばした髪は、適当に流され、前髪は二本の黒ピンで留めてある。


「名前は、なぁに?」
「……高城、未来……」




この出会いが、これから先どれだけ大きな出来事を育むか
もし想像できていたのなら、私は何か違えたのだろうか
もし予想できていたのなら、私は何ができただろうか
もし出会わなければ――……

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