馴れ合い

早速アジトに連れられた少女は、その薄汚い姿をどうにかしようと真っ先にルッスーリアに引き渡される。
この中で一番少女に興味を持ちそして少女の扱いに長けていそうなのがルッスーリアだけなのだ。

終始無言だった少女は、知らぬ人に連れられてきたというのにまったく反応を見せない。
あくまでされるがままに、逆らわず生気を見せずに、だ。
あまりの無防備さと諦めの良さに、思わず誰もが心配の色を宿しそうになった。
最も、諦めの良さというか、生きること自体を諦めているようにも見えたが。


「じゃあまずその服を脱ぎましょ! 汚らしくて見ていていやだわぁ」


そういうルッスーリアに、金髪の少女は顔をあげた。
相変わらず前髪に隠れてその表情は見えない。
だが、その言葉の意味を理解したのか、ゆっくりとした動作で少女は衣服を脱ぐ。


「んふっ、すごい痩せこけてるわね〜。いやというほど食べさせて健康な肉体に戻してあげるわっ」


長い間ほとんど何も口にしていないのだろう。
あばらはくっきりとその白い肌にうつり、気味の悪いほどに痩せこけていた。
骨と皮、と呼ぶのに相応しい容姿だった。


「じゃ、まずはお風呂ね。いらっしゃい、隅々まであらってあげるっ」


鼻歌でも歌いだしそうな様子のルッスーリアは、少女を風呂場まで連れていく。
まったく疑問も持たず少女は風呂場に連れていかれ、体をぬるま湯につけた。


「っ……」


今まで声を発さなかった少女だったが、急に水に触れたせいだろうか。
驚きに息を呑み、あまりに動揺したせいで急激に風呂場の温度が下がる。


「いやだっ、寒い!」


ピシ、と音を立てて風呂場の水が固まり始める。
それを表情の見えない少女が見て、少しだけ慌てる仕草をした。
やがて少女は求めるようにその小さな手をルッスーリアに伸ばし、掴んだ。

すると急激に温度は元に戻り、ぬるま湯もまた元の温度を取り戻す。

その様子をルッスーリアは、幼いながらの感情の起伏の激しさと、それによる力の軽い暴走だと締めくくる。


「ししっ、おい、どんな感じ?」
「んまぁ、ベル! 女の子がお風呂に入っているのに!」
「おめーが言うな、変態」


言い争いが始まり、一気に少女は混乱する。
だがそんな二人をよそに、水の中に自分の体を沈めた。
恐らく水に触れたことがないのだろう、ぱちゃぱちゃと水音が鳴るのを不思議そうに見つめていた。


「はい、じゃあ綺麗になりましょうね〜」


そう言われると、ルッスーリアはまず少女の髪を濡らし始めた。


「髪の手入れについては私よりスクアーロのほうが詳しいのだけれど」


そう呟きながら、丁寧にルッスーリアは少女の足元にまで届きそうな髪を洗う。
洗いながら、風呂が上がったらしっかりと髪を切らないと、と心に決める。

あまりに突然なことで何をされているか分からず、とりあえず少女は目を閉じる。
その間も頭は洗われ、混乱だけが少女を包んだ。


「しししっ、なんかガキみてー」
「あらんっ、ベルと大差ないわよ」


やがて全身を洗われた少女は風呂を出て、ルッスーリアの宣言通り髪を切られた。
最も髪を切ったのはスクアーロで、ルッスーリアはどういう風に切るかの予想図をスクアーロにあげただけだが。

そこまでして、ようやく少女の顔が見えた。

透き通るアクアマリンの瞳に、すっと伸びた鼻。
唇は桃色で、まだ子供らしく顔はまだ幼かった。
そんな彼女に彼女自身の金髪はよく似合っていて、だからこそルッスーリアも背中までのロングに残しておいたのだ。


「んまぁっ、すっごい可愛いじゃなーい!」


鏡の中の自分を、ぱちくりと目を瞠目させながら少女は見つめる。
やはりあまり事態を理解できていないのだろう、きょろきょろと見回してから、もう一度自分を見直す。
その表情には相変わらず何も映らないが、それでも混乱や戸惑いなど、少しだけ感情が見えるようになってきた。


「っつかこいつ、名前なんていうの?」
「ストリートチャイルドに名前なんてないわよ! ね?」


そうルッスーリアは少女の目線まで屈みこみ、尋ねる。
少女はゆっくりとルッスーリアを見つめたが、何も反応を示さない。
それでも、沈黙は肯定を意味していた。


「じゃあ決めたらどうかしらぁ?」
「……ユキなんてどうだぁ゛?」


ルッスーリアの言葉に我先に、と今まで黙っていたスクアーロが口を開く。
ルッスーリアとベルの二人が、スクアーロを見つめ先を促す。


「……ジャッポーネじゃ、neveのことはユキと呼ぶらしいぞぉ。こいつのさっきの力を見る限りじゃ、ピッタリだろうがぁ゛」
「ししっ……意味わかんねー。なんでジャッポーネなんだよ」
「う゛お゛おぉおいぃ、うるせぇぞぉ! 一番最初に思いついたのがそれなんだぁ゛!」
「うるっせー……」


火花が散り始める彼らをよそに、少女はじっとスクアーロのことを見ていた。
やがてそれに気付いたルッスーリアが、優しく声をかける。


「あらん、どうかしたの?」
「……」


ゆっくり、だけど確かに彼女の口が開く。
小さな声で紡がれたその言葉に、ベルとスクアーロもその動きを止めた。


「…………ユ、キ……」


それが、少女が初めて発した言葉だった。

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