開幕

暗闇の渦の中
囚われていたのは私だった

僅かに残る記憶の中で笑ってくれた影がある
だけどその影も、やがて暗闇の中に消えていった

私は誰だろう
きっと知る必要もないのだろう
誰からも蔑まれ、道端に倒れる私を
まるで端っこに咲く雑草のような存在だった私を
救い上げてくれたのは、紛れもないあなたでした――……




「あらんっ、ボス見てこの子!」


そう女言葉の男が道の端を指差す。
彼の名前はルッスーリア、性別は紛れもない男だ。
どこからどう見ても男のはずだ。

そんな彼が指差す先は、道端に座り込んでいる薄汚い少女だ。
ゴミ箱から漁ってきたのだろうか、布切れとしか思えない衣服を纏っている。
髪は好き勝手に伸び、表情が隠れて見えない。

ここら辺でストリートチャイルドを見つけるのは、珍しいことだった。
だからこそ、ルッスーリアもそれを見て少しばかり意外だったのだろう。


「ししっ、きったねー……」
「見たところベル、あんたと同じ年じゃない」


そういうベルはまだ8歳だ。
だが一家惨殺という過去を持ち、めでたくヴァリアーに入ったという恐ろしい経歴を持っている。


「ねぇボス、拾っていきましょうよ!」
「……意味がねェ」


そういうヴァリアーのボス、XANXUSの言うことはもっともである。
ストリートチャイルドを拾ったところで得になることはない。
寧ろ無知な子供が一人増えて、邪魔になるだけだ。

特に、とある目的を持ったヴァリアーにとっては。


「でも可愛いじゃない! 今から育てれば、将来立派な戦闘要員になれるわよ!」

そう興奮気味に話すルッスーリアに、金髪の薄汚れた少女は何の反応も示さない。
表情はおろか、瞳も見えない……が、それでもルッスーリアを見上げていた。
心が、死んでしまっているようにも見えた。

「……」
「う゛お゛おぉおい! ルッスーリアァ゛、何ふざけたこと言ってんだぁ!」


XANXUSが目の前に立ち、威厳のある顔で少女を見下ろしても相変わらず彼女は顔色一つ変えない。
それどころか、体育座りのまま呆然と彼を見上げていた。
だが、銀髪の男の声は違った。

銀髪の男の名は、スクアーロ。
まだ短いその銀髪をなびかせながら、酷い叫び声をあげる。
そんなスクアーロの叫び声に、少女は耳を塞いだ。


「しししっ、スクアーロ拒絶されてやがんの」
「んだとぉ゛!?」


それでも少女は表情筋を少しも動かすことはない。
ただ純粋に目の前の出来事をまるで映画でも見ているかのように見つめ、そして動かない。
現実を拒絶したかのように、死を受け入れたかのように
恐怖すら受け止め受け流すそんな彼女を、XANXUSはずっと見つめていた。


「……戦えといえば、戦えるか」


それが、XANXUSが少女に向かって放った第一声だった。
それに少女は反応を見せない。
その言語すら理解できてないように見えるほど、少女は反応しない。

いっそ人形なのでは、と疑ったほうがすっきりするほどだった。

やがて諦めたようにXANXUSが溜息をつこうとしたその時、
視界の真下で、光が見えた。


「……!?」


その光は、少女の手元から来ている。
その光が強くなると同時に、彼らは周りの空気が冷たくなっていくのを感じた。


「……マジで?」


笑みを崩さないまま、ベルは零した。
ベルの目の前では、いくつもの氷の礫が浮かび上がっていた。
そしてそれはすべて、刃物のように鋭く、人を傷つけることは容易かった。


「……そうか」


それが、XANXUSにとっては少女からの答えらしい。
彼は目を瞑り、踵を返した。
その行為を理解できないヴァリアー一同は、XANXUSの背を見て首を傾げる。
……彼の口から、一言が発されるまでは。


「……連れていけ」


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