悠遠カウントダウン | ナノ

悠遠カウントダウン

「やあ、巡、柊」
「頼城……また貰ってきたのか。何度も言ってるだろ、危険だと」
「紫暮はバカ」
「む、愛のこもった贈り物だぞ。ほら、二人の分も」
「やれやれ……検閲が済んだらな」
 憧れのラ・クロワヒーローたちの会話がこんなに近くで聴けるなんて! 耳元で交わされるやりとりに、私はイヤホンをそっと押さえる。音質は何度も調整したおかげで十分綺麗だし、録音もばっちりしてある。通信も問題ない。完璧だ。
「なんかそれ、イヤ。こっちに近づけないで」
「む、この熊が? 愛らしいから柊に似合うだろうと思ったんだが」
「知らない、俺はいらない。紫暮が持つなら勝手にして。自己責任だ」
 熊。私の贈ったテディベアのことだろう。紫暮様のものになるなら願ったりだ。彼の自室ってどんな感じだろう。そこに飾られて、ひょっとしたら話しかけてくれたりするかも、そうしたら一生録音聴いて生きるのに。
「この熊は愛を感じるな」
 当然だ。愛してるもの。
「なにせ重いからな!」
 音質にこだわったら結構な大きさになっちゃったからね。触って気付かれないように綿もちょっと増やしたし。
「待て、重いだと? ちょっと寄越せ」
 雲行きが怪しい。
「あー……柊、この手のぬいぐるみって一般的にどのくらいの重さなんだ?」
「……これ、変。重い。怪しい」
 無言。微かに遠ざかっていく足音。「盗……」「しぐ……カ」「待て、俺は……」
 しばらくして足音が戻ってきた。次いで軽やかな裁ち鋏の音。しゃきん、しゃきん、という爽快な音が、私の断頭台へのカウントダウンだった。
20200921

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