永久 | ナノ

※少し痛そうな表現あり

「うわ、ひでえ顔」
 開口一番にトマーシュに言われショウは顔をしかめる。そうすると腫れた頬がぴりぴり痛んだ。一目で分かるほど赤く腫れ上がった顔は喋るのにさえ苦痛をもたらしたから、昨日から一言も発していない。
「殴られたのか」
 見れば分かるでしょと口を開かずに頷く。笑われるかと思ったが訊いてきた彼は神妙に黙っているだけだった。
 彼が敵対チームからやってきてずいぶん経つが、ショウとしては未だに異物感を拭い切れないでいる。どことなく振る舞いに粗暴なあちらの雰囲気が残っているような気がする。それでも彼を引き入れた既に男はチームを去っていたし、代理リーダーとしてトマーシュが相応しいことは認めるしかなかった。
 どうせ居場所はここにしかない。ここに居続けるためにつまらない不信なんて忘れて受け入れた方が良いに決まっている。
 頬はずきずきと痛み続けている。トマーシュは黙ってこちらを窺っている。その視線の中に含まれた見慣れない色がなんなのか、痛みから気を逸らすために考える。怒っているようにも怯えているようにも見えてどことなく不愉快だった。
「消毒しねえの」
 長い沈黙を破った声音と視線の色は完全に一致していて、ようやくショウはそれがなんだったか気付く。
「心配してるの?」
「当然だろ」
 疑われたことが心外だとでも言いたげな態度に思わずショウは声を上げて笑った。頬が切り裂けそうに痛んだ。それでも笑うのはやめられなかった。笑っているせいか痛みのせいか視界が滲んでぼやけて、動揺するトマーシュの様子はよく見えなかった。
「な……なにがおかしいんだよ?」
「なんにも?」
 つまらない意地を張ったところで、元敵対チームだろうが彼はとっくに仲間だったらしい。息を整えながら涙を拭う。うっかり零れでもしたら傷口に沁みそうなので。
「ねえ、殴られた時にさ、奥歯飛んだ」
「えっ」
 見て見てと口を開けてみせる。素直な彼は疑いもせず近づいてくる。奥歯なんか抜けていない。それに気付いたらどんな顔をするだろう、それも気にはなるがその反応は見られないかもしれない。もっと驚かせてやる予定だから。
 顔が近づく。
20200909

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