無題 | ナノ

※いきなり下ネタ

 セックスってもっと何か特別なものだと思っていた。嫌悪の情があるわけではなかったが、日常的に行うことではないのだろうと漠然と考えていた。実際には翔太と付き合いだして三カ月もしないうちに触り合って擬似的な行為をしたし、挿入までするようになったのもすぐだった。好奇心と性欲なら余るほどある年齢だから。ただ準備も後始末も時間がかかるうえ翌日にまで響くので、休みの前日にしか出来ないが。
 そして明日は久々にオフだった。だから風呂の蓋の上に置かれた洗面器とその中でお湯に浸かっているローションのボトルを見て苦笑いしている。先に入った彼が置いていったこともその意図も明白だった。
 仕方ねえな、と冬馬は笑って、ぬるくなったボトルを手に取った。

 ボトルを携えて風呂から上がるとベッドサイドにはタオルやらティッシュやらが集められていた。分かっていたとはいえあからさまに示されると気恥ずかしい。入り口で一瞬躊躇してから側に近付く。
「上がったぞ……翔太?」
 布団にくるまった翔太は反応を示さない。嫌な予感がする。固く巻き込まれた掛け布団を無理やり引き剥がすと、案の定彼はすやすや安らかな寝息をたてて眠っていた。
「……うっそだろおまえ…………」
 言葉もなく脱力してがっくり座り込む。一度寝たら簡単には起こせないことは身をもって知っているし、もはやその気力も湧いてこない。ベッドに肘をついて腹いせに頬をつつき回してやった。
「おまえなー、俺が何のために……この……」
 せっかく久々の機会だと思って、期待して準備してきたのに。改めて自覚して顔が熱くなる。墓穴を掘ったような気分だったがしかし翔太は起きない。どころか寝返りを打って専有面積を広げた。
 ため息を吐く。今日はもう諦めて寝るしかないらしい。



 起きろと叫ぶ声と乱暴な揺さぶりで目を覚ました。だから事務所か出先かと思って景色とのギャップに一瞬混乱したが、すぐに冬馬の家だと思い出す。ベッドサイドに仁王立ちする冬馬は翔太を見下ろしてどことなく皮肉っぽく笑う。
「よく寝たか?」
「うん……おはよ」
 どうしたんだろうとあくびしながら内心で首をひねって、思い至った。眠気も吹っ飛ぶ。
「あ!」
「急に叫ぶなよ。朝飯パンでいいよな」
 背中を向けかける冬馬にしがみついて止める。
「冬馬君ごめんね、僕、冬馬君の家に来たら安心しちゃって……怒ってる?」
 前髪越しにうるうるしながら見上げると分かりやすく狼狽えてぼそぼそと否定する。かわいい人だと思う。
 とにかく怒っていないと言わせたのを良いことに改めて腕に力を込めてベッドに引き込もうとする。
「ちょっ、オイ、何考えて……」
「今からしようよ! ね、せっかくお休みだし」
「何がせっかくだ、この、」
「冬馬君も僕としたかったんでしょ?」
 かわいく首を傾げてみせたら照れ隠しのようにわざとらしいしかめ面を作られる。「歯は磨いてこい」と蹴り出された。ぱたぱたと洗面所に急ぎながら行為自体は拒否されなかったことに堪えきれない笑みが浮かぶ。なんだかんだあの人は自分に甘いのだと確かめて、楽しくなりそうな一日だと思った。
20190213

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