弟クライシス | ナノ

※攻めの女装

〜ここまでのあらすじ〜
 Jupiterがハワイロケを満喫している間、日本では新たな法案が可決され、一定以上の弟力(おとうとりょく)を持つ者は国を乱すとして逮捕されることになっていたのだった。

□ □ □

 日本。とあるホテルの一室に、Jupiterの三人は潜伏していた。弟力は100を越えると逮捕の対象となるが、翔太のそれは10000を越えていた(北斗の簡易計測による)。プロデューサーや事務所の仲間の手を借り空港から直でこのホテルに籠り三日となる。国民的弟アイドルの呼び名を持つ翔太の帰国は既に知れ渡っており、冬馬と北斗もうかうかと出歩けない状況だった。
「おい、調子はどうだ」
「順調だよ。だろ?」
「まあまあね」
 北斗は化粧台の前に座った翔太の丸椅子を回し冬馬の方へ向ける。女物のブレザーとスカートを身につけ、メイクを施された翔太はそれなりに女子に見える。要するに女装することで弟ではなく妹だと言い張る作戦だった。
「あとはプロデューサーが小物を買い足してきてくれるはずだから……髪もいじってね、もう少しで完成かな」
「どーお? 冬馬君。僕かわいいでしょ!」
「あーはいはい」
「照れないでよ」
 冬馬は顔を背けるが、つい気になって胸元へ一瞬目を向ける。そこは随分大きく制服を押し上げており、ぎょっとして思わず二度見すると翔太も視線に気付いてわざとらしく甲高い悲鳴を上げ手で胸元を隠した。
「冬馬君のえっち! 変態! [ピーー]!」
「だだだ誰が[ピーー]だ! どこでそんな言葉覚えた!」
「もうお嫁に行けない! 冬馬君責任取ってよ! 結婚して毎朝僕を起こしてお味噌汁作ってお世話してお出かけ前にはちゅーして送り出して!」
「ハードル高ぇ! 起きるのと支度くらい自分でやれ!」
「二人とも落ち着いて!」
 喧嘩の最中にヒートアップしてベッドの上で馬乗りになっていた翔太を冬馬の上から引き剥がすと、北斗はやっとひと息つく。
「秋月君辺りにパッドを借りられれば良かったんだけど、彼らもあの法律で危ないらしくて頼めなかったって。それでグレープフルーツを詰めたんだよ」
「いや他にもなんかあっただろ……ハンカチとか……」
「冬馬君小さい方が好きなの? 意外〜」
「そういう話じゃねえよ!」
「グレープフルーツなら皮も厚いし、抵抗少ないかと思って」
「食べる気かよ!?」
「もったいないだろ」
「まあ……そうなのか……?」
 北斗の携帯に着信が入る。プロデューサーからの呼び出しメールだ。物資の差し入れだろう。北斗は眼鏡と帽子を付け、二人を残し慎重に辺りを窺いながら出ていった。
「……おまえ、これからは男装アイドルとしてやっていくのか? それとも女装で、女として……」
「どうだろ……プロデューサーさんとも相談しないと。それでさ……」
 いつになく真剣な顔で翔太は冬馬を見つめる。
「多分、会見とかするんだと思うけど……その前にさ、僕が世間的にも男でいられるうちに、その、冬馬君を……」
 口ごもる翔太に、皆まで言うなと冬馬が頷きかけたその時、部屋の外で大きな音がした。乱闘の気配に二人は思わず立ちあがり身構える。
「冬馬! 翔太! 逃げろ!」
 北斗の叫び声。同時にドアが破壊同然に押し開けられ、数人の男がなだれ込んできた。先頭の男は北斗の腕を捻り上げて盾にするように進んでくる。
「北斗!?」
「北斗君!」
「俺に構うな!」
 北斗は二人に怒鳴るが、かと言って逃げ道などない。冬馬と翔太は男たちと睨み合ったままじりじりと後ずさる。しかしすぐに壁に行き当たってしまった。
「あ、あの……僕、じゃなかったわたし、本当は女の子なんです……!」
 翔太が最後の手段と男たちに訴えるが、彼らは相手にしない。なんでも315プロの弟たちは皆一様に同じ手段を取ったらしかった。
「他のヤツらも捕まってんのかよ……!?」
 冬馬の問いかけに先頭の男が頷く。激昂した冬馬は殴りかかろうとするが、翔太が必死にしがみついて止める。
「ここで冬馬君まで捕まっちゃったら意味ないって!」
「離せよ!」
「いいって、冬馬君。北斗君もごめんね、こんなことになっちゃって……。僕、大人しく捕まるから北斗君を離して」
 翔太は自ら男らに歩み寄り、宣言通りあっさり拘束される。解放された北斗は背中を突き飛ばされ冬馬の側へと追いやられる。二人はなすすべもなく連れて行かれる翔太を見送るしかない。
「翔太……俺まだ……!」
「信じてるから」
 最後に振り返って翔太は言い、そして姿は見えなくなってしまった。
「クソッ……なんでこんな……」
 地面を叩く冬馬の肩に、北斗は手を乗せる。
「冬馬。じっとしている場合じゃないよ」
「……ああ、そうだな。任されちまったからな……」
 冬馬は立ち上がる。信じていると言われてしまったのだ。その上翔太だけではない、事務所の仲間も含む大勢の罪のない弟たちが捕まっている。
 アイドルの持つ影響力は計り知れない。政治を動かすことさえ可能かもしれない。彼らの戦いはまだ始まったばかりだ!未完!!!
20180907
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