無題 | ナノ

※ポエム
※あんまり幸せじゃない

 幸せでなくてはいけない。それが約束だから。

 雑然とした小汚い店内でリクはパーツを見て回っている。この店に集められているのはジャンク品ばかりだが、生きている部分だけ抜き取れば十分使えるだろう。金を節約しなければならない。リクは機械の専門家ではなく、大型の自律アンドロイドの修復にどれほどの額が必要となるのか見積もりさえはっきりしないため、とにかく可能な部分は切り詰めなければボディの再生すら賄えない可能性もあった。試行錯誤するための分まで含めれば金などいくらあっても足りないほどだ。
 壊れたラジオにテレビに空気清浄機。モーターでも回路でも生きていないかとリクはまじまじと観察する。よく分からない。リクは機械の専門家ではない。リクは一人だ。リクを助ける者はいない。リクの親友を知る者はいない。リクは一人ぼっちだ。
 自室で眠る親友のことを考える。眠っているだけだと信じている。シーツで体を覆ってしまえばほとんど傷のない顔は人間の寝顔と変わらない。ただその体は死体よりもずっと冷たいだけで。
 結局リクは目に付いたガラクタからなるべくまともそうな物を選んで思いつくままに積んでいく。どうせ見ただけでは分からないのだからやってみる他ない。壊れたラジオにテレビに空気清浄機。あるいはアンドロイド。ADAMは、世界初の感情を持ったアンドロイドは、リクの親友はもはやジャンク品だ。
 ここは機械の墓場だとリクは思う。棚の中で死んだ機械がごちゃごちゃ身を寄せ合っている。ADAMは、リクの親友はまだ生きている。だがリクが死んでしまえばそれを知る者など誰もいなくなる。
 棺は一つでいい。きっと左腕は取り外されるだろう。空いた隙間に誰も知らない親友の記憶を抱きしめて、二人で一つの棺桶に横たわる。ADAMのための棺はこの世のどこにも存在しないので。
 違う。棺などいらない。ADAMはまだ生きていてリクもまだ生きていてそしてまだ死ぬわけにはいかないのだから。託された未来は未だ訪れておらず約束は果たされていない。皆が分かり合って幸せである世界を創らなければならない。
「幸せなわけないだろ……」
 ガラクタを抱えてしゃがみ込む。幸せではなかった。少なくともリクは。幸せにならなければならないのにその理由であって条件である彼がどうしようもなく欠けている。
 機械の墓場で、リクは一人だった。
20180812

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