SF | ナノ

Jupiter

 冬馬君がぱ行しか喋れなくなった。翔太はぴょーぱ、北斗はぽぷぽ。正直すっごく面白いので動画撮ってたら拗ねて黙ってしまった。「ごめんって冬馬君、だって面白いんだもん」「ぱぱ」バカと言ったらしい。面白い。「ぱぱっぺぱぴぺぱぱぷぱんぽぱぴぽ!」何て言ってんの? すると何を言ってもバレないのを良いことに冬馬君はむしろ饒舌になった。だけど本当は、イントネーションと母音だけでも言いたいことはなんとなく理解できてる。さて、なかなか聞けない素直な気持ちを暴露してくれてるわけだけど、これいつ治るの?

 北斗が右手で挨拶する度、星が飛んで落ちる。比喩じゃなく本当に飛び出てちりんと音を立てるので、その度俺たちが拾って集めている。手のひら大の、厚さ2ミリくらいの五芒星。打ち合わせると風鈴みたいないい音がするが、さすがにだいぶ溜まって邪魔になってきたので、許可を貰って事務所の裏に埋めた。毎晩、うっすら地面が発光している。どうしよう。

 最近の翔太は浮いている。10センチくらい。胸の辺りに基準があるらしく、あぐらを組んで座ると冬馬の腰くらいの高さだ。インド人にこういう人いそうだなあと思う。上手いこと重心を移動させてすいすい歩くしダンスも宙返りも出来るので特に不便はなさそうだけど、やっぱり人目が気になる。原因はなんだろう、と思っていたら桜庭さんが言う。「あまり憧れとかそういう浮き立つような気持ちを溜め込まない方がいい」心当たりは俺にも分かる。

F-LAGS

 突然、大吾くんの言葉が分からなくなった。方言ですらない不思議な言葉を喋る彼が正しく発音出来るのは僕らの名前だけだ。イエスは涼、ノーは先生、ボスが余ったのでおいしいを割り振った。僕らの言葉は分かるのに言葉が通じないことの辛さを、大吾くんは笑顔で隠す。そんなある日、大吾くんの言葉が戻った。「大吾くん! 治ったんだね!」「おお、涼! 嬉しいのぉ!」だけど一希さんは青ざめて言った。「……二人目だ」

 文字が書けなくなった。正確には、紙に文字を書けなくなった。サインペンも鉛筆も万年筆も、まるでビニールの上みたいにつるつる滑って何も書けない。パソコンは使えるが、サインは出来ない。困ったものだ。おれが書いたはずの言葉はどこへ行ってしまったのだろう。必要なところへ行ったならいいんだが。どこかで不足している言葉が十分溜まるまで、おれの言葉を分けてあげよう。誰も読むことのできない物語を、紙の上に綴り始める。

 三人で深刻な顔をしているというのに、みんな格好はかわいい女の子のそれだからどことなくアンバランスだ。目覚めたら女の子になっていたと慌てる二人に女の子の服を着付けてあげて、さてどうしたら戻るんだろう。というか、僕も女装しちゃったけど本当は男の子のままなこと、バレてないよね?
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