novel50 | ナノ

※逆レイプ
※あんまり幸せじゃない

 古い木製のベッドはトマーシュが身体を揺する度にギイギイと嫌な音を立てた。潰れたマットレスも突き出たスプリングも嫌いでショウを寝かせて上に跨がっている。勝手に住み着いている廃墟じみたアパートの一室には煙草の煙が漂って視界が悪い気さえした。
「あ、はあ、んんっ」
 トマーシュはわざとらしく大声で喘いでみせる。反対にショウは唇を噛んで目も瞑っている。クソマグロと罵ってみるが返事はない。トマーシュの中を犯しているのに犯されてでもいるように、眉を寄せてじっと耐えている。そのくせ性器は硬く反応していて時折堪えきれないように腰を跳ねさせるものだから愉快だった。
 笑いながらトマーシュは身体を動かす。酷く気持ちが良かった。
 最初は遊びのつもりだったのに。生意気な年下をからかってやるつもりで声をかけて、そうしたら彼は本気で傷ついたような顔をするものだから後に引けなくなってしまった。柄にもなく一人で律儀に下準備をして、彼を押し倒して口に含んで無理矢理反応させて突っ込ませた。最初は苦痛でしかなくてただショウの反応を面白がっていただけだったのに。何度か繰り返すうちに快感を拾い出して遂には前だけじゃイけなくなったときた。クソ野郎。
 嫌なことを思い出したとトマーシュは首を振って思考を締め出す。早く何もかも忘れ去りたくて一層深くまで押し付けさせる。良いところを狙って身体を沈めると頭の中が痺れて何も考えられなくなる。自分のものとは思えない声が出たがここにいるのは自分なのかさえ分からないから関係ない。気持ち良い。気持ちいい、きもちいい、そればかりで頭が埋まっていく。夢中で身体を持ち上げては下ろしを繰り返す。身体の下で誰かが何か言っている。何だか分からないがこんなに気持ち良いのだからきっと良いものに違いない。
 目の前が真っ白になる。ほとんど悲鳴に近い声を上げながら達した。荒い息を吐きながらも身体は真っ直ぐに保つ。下にいる誰かは、ショウは相変わらず目を閉じていて、そのままぽつりと呟く。
「トマーシュ」
 これが一番嫌いな瞬間だった。言葉が像を結び始める。現実が追いついてくる。世界のどこにも居場所がないことを思い出してしまう。
「おい」
 呼びかけてもショウは目を開かない。無性に腹が立った。手を伸ばして瞼に触れる。一層きつく眉が寄せられる。
「俺を見ろよ」
 命令したはずだったのに声が震えた。いっそ祈るようにショウの顔を見つめる。頑なに閉ざされていた瞳が初めてゆっくりと開いた。こいつはこんなに綺麗な目をしていただろうか。こいつの目の中に俺は居られるだろうか?
 また名前を呼ばれる前に、トマーシュはショウを引っ張って、体勢をひっくり返す。
「次はおまえが動けよ」
「……うん」
 命令するように言うとショウは仕方なく頷く。それでいい。トマーシュはスプリングの飛び出たマットレスに沈む。早く一切を忘れようとショウを見上げた。

□ □ □

 上に跨がったトマーシュが動くのに合わせて、古いベッドが軋んだ嫌な音を立てる。ショウは祈るように目を閉じて、飛びそうになる思考を必死で繋ぎ留めている。
 犯されるようにして犯していた。もう何度目だろう。いつだって無になろうとするのに上手くいかない。トマーシュの嘘くさい喘ぎ声にどうしようもなく興奮した。知っていてやっているのだ、彼は。嫌になる。それでも目を閉じている分神経は耳と下半身に集まってしまって、馬鹿みたいに気持ち良くって仕方なかった。
 トマーシュが動きを早くする。深いところまで突き入れさせて、嘘くさかった声が切羽詰まっていく。気持ち良い。何も考えられずに何度も彼の名前を呼んだ。どうせ今の彼には聞こえていない。
 トマーシュは悲鳴めいた声を上げ、同時にショウも中に吐き出す。トマーシュが息を整える間もショウは目を閉じたまま、いつものように彼が去って行くのを待っている。彼はいつもショウを都合良く使っては放置した。どこまでも自分勝手で、不愉快で腹が立って少しだけ優越感があって惨めで最悪だった。
「トマーシュ」
 うっかり口に出してしまって、慌てて唇を噛む。引き止めるように聞こえていたらどうしよう。
「おい」
 トマーシュが呼びかけてくるが、ぎゅっと目を瞑ったまま開けない。彼の姿を見たくなかった。見てしまったら忘れられなくなりそうで。そうしたら本当に、彼でしか駄目になってしまう。
 頬に手が触れる感触がした。指の先で瞼をなぞられる。酷く優しげな手つきだった。
「俺を見ろよ」
 発された言葉は確かに命令形なのにどこか哀願めいていた。だからショウは思わず目を開けてしまった。目が合うとトマーシュは目を逸らした。逃げるなよ。どうせ逃げ場なんてどこにもないのに。
 ショウはずっと瞼の後ろに逃げていたしトマーシュはきっと自分自身から逃げていた。実際それは現実逃避でしかなく本当はどこにも逃げられてなんていなかった。
 引っ張り起こされる。ぐるりと反転して今度はトマーシュがマットレスに沈んだ。こうして彼を見下ろすのは初めてだった。
「次はおまえが動けよ」
 トマーシュは目を逸らしたまま言う。
「……うん」
 ショウは頷く。トマーシュが腰を揺らす。繋がったところから痺れるように何もかも分からなくなっていく。反射的に目を瞑ると真っ暗闇が逃げ場のないことを示す。この瞬間が一番嫌いだった。
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