さよならスーパーノヴァ | ナノ

さよならスーパーノヴァ

※ドラミュパロ

 何を為すにも金が要る。それは密輸やら買収やらの犯罪にも、そしてそんな悪を倒そうとする革命にも等しく真実だ。
 金を貸してほしい、と革命家は苦しげに言った。
「断る」
「……そうか」
 片目で冷ややかに見下ろしてやると、床に手を付いてまで頭を下げた革命家は顔をあげ、表情を歪めた。
「だが……金が要るんだ。どうしても!」
「死にたがりに貸す金はないと言っている」
「死にたがりじゃねえよ。生きるために戦うんだ」
 鼻で笑ってやった。医者に何を言うのだろう。戦いは即ち死を意味する。ただの民衆と訓練された貴族の私兵では結果など目に見えている。
「君達に金を貸すとしよう。君達は怪我をして戻ってくる。僕は倍の値段で治療してやろう。ふむ。なるほどいい商売だな。乗ってやろうか」
 わざと嘲るように言うと革命家は怒りに燃える目で睨んできた。殴りかかってきたなら治療費を請求しようと考えていると、彼は肩でぜいぜい呼吸をしてなんとか怒りを鎮めて、今度は哀願でもするかのように訴えてきた。
「なあ、お前だって医者だろ。このままじゃみんな生活できなくなって死ぬしかない。武器を余所から買って戦うしかないんだ。頼むよ」
 闇医者は相も変わらず見下した薄ら笑いを崩さない。
「僕が何と呼ばれているか知っているか」
「…………闇医者」
「知っているじゃないか」
 今度こそ闇医者は笑った。可笑しくって仕方ないというように。
「そうだ。僕は闇医者だ。君達が憎む相手と何も変わらない」
 まともな医者には頼めないこと、例えば犯罪絡みの怪我の治療だとかあるいは違法薬物の処方だとか、闇医者はそういうことを一手に引き受けてきた。患者あるいは顧客の差別はしない。代わりに法外な金を取った。風紀を荒らして、民衆を苦しめているという意味では貴族と大差ない。おまけに闇医者のクライアントはどちらかと言えば貴族の方が多かった。
「僕の金を使うのか? それでいいのか」
 金。革命家が欲しているのは闇医者がまともとは言えない手段で稼いだ金だ。
「貸して……くれるのか」
「貸すとは言っていないが」
 闇医者は顔を歪める。革命家も苦しげな顔で、それでも真っ直ぐな目でただ見つめてくる。
「いいだろう。いくらでも貸してやる」
 結局闇医者はそう言った。見上げてくる革命家は随分思いつめた顔をしていた。だから闇医者はその顔を思い切り笑ってやろうと思ったのにどうしてかそうすることができなかった。
 革命家は断るべきだったのだ。汚れた金など欲するべきではなかった。闇医者はそう願っていたのに。それでも革命家がその道を選ぶわけにはいかなかった。彼には民を救う目標があり義務がありそしてそれを望まれてもいた。崇高な目的の前に金に綺麗も汚いもなく、ただ闇医者は彼の救済の対象ではなかったというだけだ。
 革命家が断ることを望んでいるのは闇医者だけだった。
 床板を剥がし現金を見せると革命家は少し笑った。彼は金など見ていない。きっとその先にある平和を夢見ている。間抜けな奴。救われない闇医者は心の中で嘲ることしかできない。気高かったはずの心はもうその金を受け取った時点で汚れているんだぞ、と思ってもいないことを必死で念じた。綺麗だったものを地に落としたことを喜ぼうとした。
 鞄に詰めた金を持って、彼は去り際に振り返った。
「お前も危なかったらちゃんと逃げろよ。生きて会おうぜ」
 それから彼は真っ直ぐに出て行った。
 何も上手くいっていなかった。革命家は汚れてなどおらず、しかし全く美しいままでいてくれもしなかった。きっとあの金は革命に正しく役立てられるのだろう。子供じみた夢を見ているのは彼だけではなかった。酷く惨めな気分だった。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -