春名と旬の愉快なドラゴン退治 | ナノ

春名と旬の愉快なドラゴン退治

 ここは国王の春名の寝室。キングサイズ(国王だけに)のベッドでは春名とかつての隣国の女王であり最近結婚した旬がすやすや眠っていました。
 そこに突然眩い光が差し、ぽんっとジョーカーの四季が現れました。ふわふわ浮いています。春名と旬は目をこすりながら身体を起こし、服を着ていないことに気付いて慌ててシーツを引き寄せました。
「ちょっと、四季くん、こんな時間に夫婦の寝室に入るものじゃありませんよ」
 旬は文句を言います。春名は夫婦という言葉に照れています。四季はぴょこんと頭を下げました。
「ごめんっす。でもお知らせしたいことがあって」
「なんです?」
「最近の寒波で小麦の種まきができないらしいっすよ。そしたら今年困るんじゃないかなーって」
「ああ……」
 そのことは旬も気付いていました。小麦が無ければ国民の生活が苦しくなることは明らかです。かといって自然現象なのでどうすることもできないでいました。
「他の国はどうしてんの? ハヤトのとことか」
 春名が尋ねると、四季は指を鳴らして空中に画面を作り出しました。二人はそれに注目します。画面の中では大きな火が燃え周りに人が集まっていました。
『バーニンッ!』
『楽勝! だぜっ!』
『行くぞ! 情熱のポーズ!』
 火を囲んだ人々は口々に叫びながら歌い踊っています。これはなんだと二人は四季の顔を見ました。
「暑苦しい人を集めて気温を上げてるらしいっす」
「バカなんですかね?」
 旬は素直に口にしました。四季は首を振ります。
「いや、それが結構効果あって、少なくともこの国より気温高いっすよ」
「マジかよ……」
「でもたまに輝っちが気温下げちゃうんすけど。ギャグで」
「なんなんだ……」
 二人は思わず頭を抱え、それからそんなことしている場合ではないと四季を見上げました。
「それで? 何か案はあるんですか?」
「あるっす」
 四季は得意げに眼鏡を押し上げました。
「北の森の奥に、火を吐くドラゴンがいるって伝説、聞いたことないっすか?」
「おとぎ話だろ?」
「それがそうでもないんす。実は存在して、それでその炎は気温を二度くらいは余裕で上昇させるらしいっすよ」
「それって危険なんじゃ」
「ダイジョーブ! 温厚な性格らしいから」
 四季は笑いました。
「まあ、辿り着けた人はいないっすけど」
「じゃあ本当かどうかも分からないし出会えるかも分からないんですね……」
「でもやるしかないっすよ。小麦がないとラーメンもケーキもドーナツもないんだから」
「それは困るな」
 二人は北の森へ行く決心をしました。そうと決まればだらだらしていられません。四季には一旦帰ってもらうことにしました。着替えるので。四季は足元に魔法陣を作り出し、「オレの足元にィー!」などと叫びながら瞬間移動で消えました。ちょっとネタが古い気がしました。

「じゃあ咲くんを呼んでください」
 あらかた着替えた旬は廊下の召使いに声をかけました。旬は女王という肩書きなので女装する必要があるのです。
「はいはーい!」
 咲がやってきました。
「森に行くんですが」
「なるほど! 森ガールってことだね」
「いえ、機動性重視で」
「えー、パンツスタイル? もったいないなあ」
 咲はしきりにスカートを勧めつつも手際よく準備を終えました。
「森といえば狼が出るよね」
「そうなんですか」
「でも大丈夫! かみやは優しいから」
「お知り合いなんですか?」
「ていうかバイト先の店長? 仲いいんだ! 会ったらヨロシクね!」
 咲の見送りで二人は北の森へと出発しました。

「参ったよなあ、いるかどうかも分からねえドラゴンを探すなんて」
「まあこれしか手はありませんからね。今のところ」
「ドーナツって小麦からできてたんだな」
「大豆とかもあるんでしょう?」
「低カロリーでも旨いからすごいよな、ドーナツって」
 二人は雑談しながら歩みを進めます。晴れてはいますが雪が深く積もり、危険な状況でした。ここで二人揃って遭難でもしたら大変です。だんだん口数が減ってゆきました。
「おや? こんなところで何をしているんだい」
 突然、雪の間からひょっこりと男が顔を出しました。大きな獣耳が生えています。
「ちょっと散策を」
 無理のある言い訳をしてから、旬は首を傾げました。
「もしや、かみやさんですか?」
「その通り、俺は神谷幸広。君たちは?」
 二人は顔を見合わせて少し迷って、正直に答えることにしました。
「オレは春名、こっちはジュンです」
「おや。まさか王様と女王様とは」
 お辞儀をする彼を慌てて二人は止め、ドラゴンの居場所にあてがないか尋ねました。
「うーん、申し訳ないけど心当たりはないね……」
 大きな耳をしょぼんとさせて彼は答えました。二人は気にしないよう言います。
 少し風が出てきたので、神谷は二人を自宅に誘いました。
「紅茶をお出しするよ。一応、店もやっているんだ」
「では甘えさせていただきましょう」
 二人は神谷の後に着いて歩き出しました。
 一時間が過ぎました。
「すまない、迷ってしまったようだ」
「ご自宅なんですよね?」
「ああ……」
 一瞬落ち込んだ神谷はすぐおおらかに笑いました。
「ああ、でもあそこに洞窟があるよ。一旦休憩としよう」
 三人は洞窟に入り込みました。
「うわわっ、お客さん!? こんなところに!?」
 洞窟の奥から若い男が姿を現しました。こっちに歩み寄ってきたと思ったら、壁に掛けられていた鍋が突然外れ頭に降っていきましたが彼はなんとか受け止めました。
「だ、大丈夫ですか」
「うん、俺は大丈夫。こんなところに何しに来たんですか?」
 若い男は龍と名乗りました。春名と旬が火を吐くドラゴンの心当たりを尋ねましたが、彼は首を振りました。
「うーん、俺消火する側だからなあ」
「そうですか……」
 春名と旬はもう帰ろうとしました。最初からダメ元だったのです。しかし龍は三人を引き止めました。
「せっかくのお客さんだしさ、ご飯くらい食べていってよ! 俺作ってくる!」
 三人が座って待っていると、洞窟の奥のキッチンからは大変賑やかな音が聞こえてきます。慌てて見にいくと龍が、横切る黒猫、襲い来る鍋、頭上から注がれるオリーブオイルなどの様々な不運と戦いつつ料理を進めていました。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です! もうすぐできますよ!」
 龍が答えた瞬間、フライパンから火柱が上がり、洞窟の天井の穴を抜けて凄まじい勢いで吹き出しました。あまりの高温に四人は洞窟を転がり出ました。
 燃え盛る洞窟を見ながら、これがオチか、と旬は思いました。その通りです。

 その後しばらくして、春名たちの国は無事雪解けを迎え予定通り種まきが行われました。隣国の隼人たちはパッションでなんとかしました。めでたしめでたし。
20180129
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