novel31 | ナノ

※モブレ

 社用車で近くまで送ってもらって、マンションの駐車場まで辿り着いたところで襲われた。深夜の暗がりの中から突然飛び出してきて、首を絞められて、植え込みに押し倒されて、俯せの姿勢で少しずらした服の隙間からねじ込まれた。ふざけんな、汚い、やめろ。暴れようとしても大柄な男が覆い被さっている状態では身動きさえろくにとれない。首を絞められたせいで上手く大声も出せない。嫌だ嫌だと思うのにどばどば潤滑剤を使われて痛みすら感じずにあっさり男のそれを受け入れてしまって、誰にともなく怒りが湧いた。
 イライラする。熱い。苦しい。ぶん殴ってやる、殺してやる。物騒な考えと裏腹に身体には全然力が入らなくて上半身はすっかり地面に付いてしまっている。少しも気持ちよくなんてない。腹のなかに突っ込まれて刺激されれば反応する、そういうつくりなのだから仕方ない。だから感じてる訳がない。勝手に腰を上げて突き出す姿勢になって、覗いた地面には粘っこい液体がぼたぼた垂れているのが見えたけど、別に気持ちいいからじゃない。
 せめて痛かったら良かったのに。
 それは向こうも同じなようで、男は不満げだった。なんだ、ビッチじゃねえか、それで俺たち騙して稼いでんのか。あとは汚い罵りと嘲り。知らない。なんなんだ、ふざけるな。気持ちが悪い。怒りは際限なく湧き続けるが、それに見合った反応が出来ている自信はなかった。罵りを吐く余裕さえない。きつく目を瞑った。
 男のは随分大きかった。比べる相手なんていないけど。ありえないくらい深いところまで無理やりに突き進んでくる。圧迫感に呻くと男は上機嫌になった。なあ、奥は初めてか、俺の大きいだろ、気持ちいい? 返事をしてやる義理はないから無視してやった。そういうことにしておいた。必死で唇を噛むのにいつの間にか自然と開いて意味のない音を発してしまう。男はしつこく喋り続ける。冬馬の男性経験について下品で的外れな想像を巡らせて、そして自分が一番だろうと勝手に誇った。
 この男はそもそも恋人同士のやり方さえ知らないのかもしれない。そう思うといっそ哀れみさえ抱ける気がした。優しい言葉とか思いやりなんてものこの男は知らないのだろう。経験がないのは冬馬も同じだが。ついさっきまでは。綺麗な幻想はぶち壊されかけてなお輝いている。
 男はずっと一人で喋りまくっている。おい、気持ちいいのか、腰振っちゃってさ、いやらしい。聞きたくもない。言葉を認識しないために意味のないことをひたすら考える。いい国作ろう鎌倉幕府、いい国って何年だ、豊臣秀吉って関係あったっけ、気持ちいい、鎌倉ってそもそも何だ、嫌だ、きもちいい、ふざけんな、いやだ、足りない、もっと。ぐちゃぐちゃ粘着質な水音が響く。男の声と混ざり合って頭の中に音が反響してうるさいくらいだった。都合が良い。自分の声に気付かないふりが出来たので。
 男が一層激しく動く。もうすっかり押し入られるのに慣れてしまった奥を何度も何度も突かれて悲鳴が漏れた。あるいは嬌声が。身体ががくがく震えてどうしようもなかった。腹のなかにぶちまけられて、それと同時に達してしまって、嫌悪感がつのる。それと罪悪感。
 それでもやっと解放されると思った。まずどこに助けを求めるべきだ? 警察、プロデューサー、それに、父親。いろんな大人の顔が頭に浮かぶ。ああ、あと北斗と、それと翔太。あいつらはどう思うだろう? こんな俺でも許してくれるだろうか?
 考えがまとまる前に男が再び動き出す。今度こそ悲鳴が出た。なんで、嫌だ、助けて。逃げ出そうとする腕をがっちり掴まれて痛みが走る。あ、明日のレッスンで痛んだらどうしよう。現実的なことを考えてそれが少しも現実的でないと気付いて笑えた。こんなことがあってレッスンなんてしてる場合じゃない。痛みで少しマシになった思考はしかしすぐにずぶずぶ堕ちていく。頭を焼くくらい熱いそれは確かに気持ちよくって、はやくしないときっとおかしくなってしまう。あるいはもう手遅れだった。
20171106
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