涼頭巾ちゃん | ナノ

涼頭巾ちゃん

 秋月涼は赤い頭巾の似合う可愛らしい少年です。一瞬少女とも見紛う華奢な体つきをしていて、声もまだ高いのですがれっきとした少年です。あだなは赤頭巾ちゃんです。
 そんな彼はある日母親の伊集院北斗におつかいを頼まれました。森の奥に住む祖母の天ヶ瀬冬馬にクリームソーダと山梨産のぶどうジュースを届けてほしいとのことです。

「冬馬くんっておばあちゃんでしたっけ?」
「設定ではそうだね」
「冬馬くんに会うの、久しぶりなので楽しみです!」
「数年ぶりか。冬馬の家は行けばすぐ分かるよ。お菓子でできてるから」
「それ違う話じゃないですか?……まあいいか! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい。チャオ☆」

 いろいろ疑問を抱きつつも涼は家を出ました。やっぱり北斗さんはカッコいいな、僕もああいうの練習した方がいいかな。森の中に入り、人目が無いのを確認したのち、涼はこっそり右手を構えました。

「よ、よ〜し……チャオ☆」
「わっ!」

 涼がウインクとチャオを飛ばした瞬間、木立の中から悲鳴が上がりました。涼が驚いて辺りを見回すと、木の陰から桃色の髪をした少年がひょっこり姿を表しました。黒のコートに、髪を立てて猫の耳のような形にしています。

「驚かせてすまんのぉ、あまりにかわいくて」
「かわいいって僕がですか? うう……」
「あ、いや、褒めとるんじゃが」
「うーん……ありがとう」

 少年は大吾と名乗りました。涼が森の奥に用事があると聞くと、親切にも送ろうと申し出てくれました。どうやら森にはオオカミが出るらしいのです。

「ワシも腕っぷしには自信があるし、役に立つと思う!」
「わあ、ありがとう大吾くん!」
「……信用するのが早すぎるんじゃないか」
「えっ!?」

 突然上から声が降ってきました。二人が慌てて真上を見上げると、枝に一人の青年が腰掛けていました。派手な赤紫の衣装に猫耳のカチューシャを身に付け、片目を前髪で隠しています。

「だ、誰ですか?」
「……チェシャ猫だ」
「いや本名を訊いとるんじゃが」
「…………一希だ」
「一希さんですか。大吾くんなら大丈夫だと思います! 優しいし」
「涼……!」

 今にも涼に抱きつきそうなほど感動している大吾と、きりりと自分を見つめる涼を見て、一希は肩をすくめました。二人とも十分素直ないい子たちだと見てとれましたし、それで森に行くには危険だと思えました。

「……子供だけでは心配だ。おれも同行しよう」
「ありがとうございます! 大勢の方が楽しいですよね!」
「おう! ほいじゃ早速出発しようか」

 ところが二人が歩き出しても一希は動こうとしません。不思議に思った二人が振り返ると、枝の上で彼は無表情に言いました。

「……登ったはいいが降りられないんだ。助けてくれ」

□ □ □

 一方その頃おばあちゃんの家では、冬馬がカレーを作っていました。北斗から連絡をもらい、孫である涼が訪ねてくると聞いたので。孫と言っても二歳違いなのですがそういうものです。
 あとは煮込むだけという段階になったところで、インターホンが鳴りました。

「こんにちはー、冬馬君! 僕だよー」
「お、涼か?」
「そうそう! 涼だよ」

 まだ高い少年の声を聞き、冬馬はドアを開けました。そこには細身の少年が立っていました。にっこり笑って手を振ってきます。あれ、涼ってこんなだったか?とは思いましたが最後に会ったのが数年前のことなので自信はありませんでした。
 柔らかそうな色の薄い髪の毛と、大きな丸い目を見て、冬馬はとりあえずこれが涼だろうと思うことにしました。

「上がれよ。昼飯まだだろ?」
「うんうん。冬馬君ってホントちょっと抜けてるよね」
「あ?」

 家の中に入った冬馬が振り返ると、少年が後ろ手にドアを閉めたところでした。勝ち気そうな目をきらきら光らせて彼は笑いました。

「冬馬君、こんなところに住んでるのにオオカミの噂知らないんだ。黒ちゃんのせいかな」
「オオカミ……?」
「僕は涼じゃないよ。御手洗翔太、国民的弟アイドルですっ」
「……? 翔太……?」

 まだ飲み込めないといった様子の冬馬に翔太はずかずか近付いていきました。

「まーとにかくお昼ご飯もらおうかなー」
「お、おう……カレーには自信があるぜ」
「違う違う。こっち」
「えっちょ、どこ触って……」
「いただきまーす」
「やめっ、こら、……あっ」

□ □ □

 森の中では三人が愉快なキノコ狩りに励んでいました。

「先生ー! このキノコはどうじゃ!」
「……それは食用だ。おめでとう」
「やったね大吾くん!」
「わはは!」

 キノコを見分ける一希はいつの間にか先生と呼ばれていました。三人が仲良くキノコを探しつつ森の奥に入っていくと、だんだん独特の匂いが漂ってきました。甘いような、香ばしいような香りです。

「なんだかいい香りがしますね」
「カレー……かのぉ?」
「……甘い匂いにも感じるが」
「ああ! 冬馬くんはお菓子の家に住んでるんですよ」

 涼は両手をぱちんと打ち合わせました。森の奥のお菓子の家はかなりマズいのでは?と一希は思いました。というか話が入り混じりすぎているような気がします。
 それでも匂いを辿って森の中を進んで行くと、少し開けたところにお菓子の家がありました。クッキーやチョコレートでできた外壁に、屋根の上にはロボットを思わせる焼き菓子の角が生えています。センスが謎だなぁと大吾は思いましたが、二人が何も感じていないようだったので黙っていました。
 家に近付き、インターホンを押そうとしたところで、涼が異変に気付きました。

「……なんか、中から変な音がする気が……ミシミシというか……ギシギシ?」
「事件かの?」

 涼と大吾は顔を見合わせました。二人は異常事態と判断し、突入しようとしましたが、一希が慌ててその肩を掴みました。

「……待て。二人は何歳だ」
「え? 十五歳です」
「十四じゃが」

 「レーティング」と一希は呻きました。二人は困惑しています。仕方なく一希はキノコ狩りの続きを提案しかけましたが、そこで派手なイントロが流れ出しました。

「チャオ☆」

 ソロ曲をバックに現れたのは北斗でした。ORIGIN@L PIECES 04は好評発売中です。

「お困りのようだね。こういう仕事は俺に任せておいて」

 確かにこういう事は彼向きな気がしました。北斗はどこからかキャスター付きの事務椅子を引っ張ってきて、腰掛けると長い足を組みました。『WILD BOYS 〜激情の拳〜』と書かれた台本を持ち、顎に手を添えると完璧な乱入の姿勢となりました。
 三人が椅子を押そうと手を掛けたところで、突然お菓子の家のドアが開きました。
 家から出てきた冬馬と翔太は家の前で妙な格好をしている四人を見て首を傾げました。森の中で事務椅子に座る青年と猫耳二人と赤頭巾なので無理もありません。自分たちの不審さに気付いた四人は固まってしまい、しばし二組は見つめ合いました。
 最初に我に帰ったのは翔太でした。

「雑技団の人かな?」
「ち、違います〜! 僕です、涼です!」
「本物か?」
「偽物がいるんですか?」
「ここにな」

 冬馬は翔太の頭に手を置きました。涼は首を傾げ、翔太はにっこり笑い、北斗はいろいろ察しました。

「あ、そうだ。僕ら冬馬くんにお届けものがあって来たんです」
「お、サンキュー」
「えーっと、クリームソーダとぶどうジュースとほくときらり(伊集院北斗ver)です!」

 露骨な宣伝ラインナップでした。冬馬は北斗がでかでかと印刷されたパッケージにも怯むことなくそれを冷蔵庫にしまってきました。

「ありがとな。それじゃ俺たち用事あるから」
「どこか行くんですか?」
「お城で舞踏会があるんだよー。そこで優勝してお金貰おうと思って! 僕なら絶対優勝間違いなしだし」
「なんでもアリだな」

 北斗はいっそ感心して呟きました。

「舞踏っちゅーのはダンスのことじゃろ? ワシらも参加してみんか?」
「え? 僕ら三人で?」
「……残念だがおれはダンスは……」
「まあまあ! 何事も経験じゃ!」
「そうだ、北斗も俺たちと組むか?」
「楽しそうだね。お城にはきっとたくさんのエンジェルがいるんだろうし、のったよ」
「じゃあ僕らライバルだね」
「負けませんよ!」

 そして六人はお城に向けて歩き出しました。
 後にはお菓子の家と事務椅子が残されました。放置されたカレーが熟成される頃にはきっと帰ってくるでしょう。楽しいお土産話と共に。
 おしまい。
20171117
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