novel26 | ナノ

※付き合ってる(と思う)
オチないよ

 事務所のヒーターの前を占領するかたちで寝転がる翔太に、道を塞がれた冬馬は怒りのまま怒鳴ろうとするが、近くの部屋でちょうど会議中であったことを思い出しすんでのところで飲み込む。とにかくこんな迷惑極まりないところで寝ているのはいただけない。通り道をちょうど塞ぐ位置にいるので。跨いでやろうかと思ったが身長が伸びなくなる迷信を思い出して気が進まない。仕方なくしゃがみこんで顔を覗く。うつぶせに行き倒れでもしたかのような格好だが寝顔は安らかだ。余計に腹立たしい。一瞬でも可愛らしいと感じた自分も含めて。
 八つ当たり気味に指先で頬を引っ張ると思いのほか柔らかく伸びる。そのままなんとなくぐにぐにいじっているとさすがに翔太もうっすら目を開けた。

「……ちょっと……なに……」
「起きろ」
「……まだいい」
「いや良くねーよ」

 良くないと言うのに翔太はもごもご何事か呟いて再び眠ろうとする。まだ確かにレッスンまで少し時間があることは把握しているんだろう。しょうがないので足を掴んで立ち上がった。引きずって場所を変えよう。
 フローリングを滑るように進んでいく。「冷たい……」と文句が聞こえたが無視だ。ソファの前までたどり着いて、ここでいいかと手を離した。ここなら踏まれもしないだろう。すっかりしかめ面になった翔太は目を瞑ったまま文句を言う。

「……上に上げてよー……寒い」
「自分で動けっての」
「冷たいなあ……」
「床がか?」
「冬馬君が」

 翔太はようやく少し目を開けてソファに登ろうとする。だらしねえな、と呆れながらそれを見守る。なんとかソファに上がって寝転がった翔太は今度は目を開けたまま冬馬に両手を差し伸べる。

「はい」
「……なんだよ?」
「寒くなっちゃったから冬馬君があっためてよ」
「え?……ん?」
「僕お腹冷えちゃったよ、風邪引いたらどうするの? ほら早く早く」

 伸ばした両手をぱたぱた動かして急かす翔太に押し切られるようにして腕の中に入る。何かおかしい気がするがよく分からない。潰さないように腕立て伏せでもするような格好になっているところに、頭を抱き込まれて姿勢が苦しい。

「オイ、離せ……」
「うーん……」
「もう寝ぼけてんのかよ……」

 さっきは起きていたようだったのに。
 腕が限界で震えてきた。慎重に体重をかけていく。寝顔が一瞬歪んだがすぐに元通り呑気な顔になる。翔太の胸に顎を乗せて、寝顔を眺める。……寝ていれば可愛らしくないこともないのに。
 遠くで携帯が着信を告げる。コートのポケットに入れっぱなしだった。慌てて立ち上がって確認に行く。プロデューサーからのメールで、簡単な業務連絡だった。ざっと読んで了解と返す。

「なんだった?」
「ん、普通にスケジュールとか。お前にも来てんだろ」
「僕のスマホ取って。ポッケにあるから」
「起きてすぐパシリかよ……」

 ぶつくさ言いながらもスマートフォンを探して投げ渡す。危なげなくキャッチして、翔太は笑う。こうやって甘やかすのが良くないんだよなぁ。分かってはいる。
 ソファの隣に腰掛ける。

「お前も寝てれば可愛いとこもあんのになあ」
「僕は起きてても可愛いよ?」
「そういうところが可愛くねえ」

 横から手を伸ばして頬を引っ張る。迷惑そうに文句を言おうとしているらしいが、口が伸びているせいで上手く発音出来ていない。堪えきれずに吹き出した。翔太はちょっと怒った顔をする。

「ちょっとぉ……」
「ふ……いやでも、今のは可愛かったぜ?」
「……嬉しくない!」

 翔太はそっぽを向いてしまう。悪い悪いと笑いながら謝る。

「褒めてるんだぜ」
「分かるけど嬉しくないの!」
「なんでだよ」
「……ちゃんと可愛くできるからさ、そっちを可愛いって言ってよ」
「え?」
「だから! 寝てるとことかじゃなくてちゃんとしてる僕にしてよ……」

 そっぽを向いたまま話す後頭部を見つめる。ぐるぐる反芻して、ようやく思い至る。

「なんだお前照れてんのか」
「照れてない!」

 向き直って噛みついてくる翔太を笑ってかわす。なるほどこういうところは可愛いと言えるかもしれない。

「国民的弟アイドル様にも褒められて照れるなんてことあんだな」
「照れてない」
「そーかよ」

 むくれてしまった横顔を笑って見ている。たまにはこういうことがあってもいい。また機会があったら存分にからかってやろう。心の中で決意しつつ、今はとりあえず機嫌をとりにかかった。
20171103

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