ミステリー・ハンティング | ナノ

ミステリー・ハンティング

※付き合ってる 

「秋になると限定味がいっぱい出てきてさ、嬉しいけど大変だよな。コンプしたくなるから」
 春名がドーナツを選びながら言う。
「あ、コレさつまいもだ。うまい」
「はあ、そうですか。僕、ドーナツの話をしに来たわけじゃないんですけど」
 隣でドーナツを頬張る春名を呆れ顔で見て、旬はテキストをシャープペンシルの先で叩く。春名は食べかけのドーナツを急いで食べ終えて、手を拭いた。
「ごめんごめん。わざわざサンキューな、ジュンも好きなの取っていいからな」
「今はいいです。……まあでも、春名さんが自分でやっておいてくれたのは予想外でした。思ったより早く終わりそうです」
「ん、まあな」
 誇らしげに胸をはる様子に旬は微笑んで、ページをめくる。
「じゃあさっさと残りを終わらせましょう。どこが引っかかったんです?」
「あー、ここのな……」
 春名はノートを旬の方に傾ける。旬も頭を寄せて、二人で覗き込んだ。
「……」
「これ、公式が上手く使えなくねぇ? よく分かんなくてさあ」
「…………」
「ジュン?」
「……お時間いただけますか」
「……おう」
 旬は睨むようにテキストを見つめる。何度も春名のノートと見比べるが、ペン先は動かない。ドーナツを食べるのははばかられて、春名は背筋を伸ばしたままその隣で座っている。
 こいつにも分からない問題ってあるんだな。いつの間にか先生のように思っていたが、当然ながら彼も一人の高校生なのだ。今更ながらそれを実感する。
「……カンニングします」
 やがて旬は悔しそうに呟いて、鞄から教科書を引っ張り出した。カンニングも何もないのだが。春名も顔を寄せる。旬は素早くページを行きつ戻りつし、ついていけない春名はノートの方を見つめた。
「これって発展問題? まだやらなくていいやつだったっけ?」
 何度も何度も見返した問題にさすがに飽きてきて、横顔に話しかけると、旬は少し逃げるように顔を引いた。あ、気持ち悪かったか? 慌てて謝ると旬は首を振った。
「いえ、こちらこそ……嫌とかじゃないんですけど……」
 俯けた顔を少し赤くして、集中できないので、とかなんとかもごもご言う。春名は首を傾げた。要するに嫌だったってことか? でも嫌じゃないって言ったしな。
「分かんねーけど、一旦休憩する? ドーナツあるぜ」
「そうですね、このままでも解けなさそうだし……」
「じゃ休憩ってことで。これハロウィンの限定なんだぜ。中身はお楽しみ」
「普通のでいいです」
「そう? かぼちゃ平気?」
「はい。ありがとうございます」
 オレンジ色のドーナツを旬に手渡して、春名は妙に大ぶりなドーナツを手にする。何が練り込まれているのか予想もつかないが、きっとおいしいに違いない。なぜならドーナツだから。
「それにしても、ジュンにも解けない問題なんてあるんだなー。付き合わせて悪いな」
「いえ、僕の準備不足でした。待っていてください、ちゃんと解きますから」
「いいよいいよ、よく考えたら同学年だしさ、オレも頑張ってみるから」
「……それは嬉しいんですけど」
 旬が黙ってしまうので、春名はまた内心首を傾げる。ドーナツを前に落ち込むなんて、相当だな。
「大丈夫だって、むしろちょっと嬉しかったよ。ジュンにも出来ない問題があるならオレに出来なくて当然だろ」
「それは嬉しくない言葉ですね」
 旬がむっとした顔をするので、春名は笑う。こっちの方がよほどいい。
 手元のドーナツに噛みつく。中にはドライフルーツが山ほど入っていた。おいしい。隣の旬もドーナツをかじっている。
 春名はドライフルーツの詰まった断面を眺める。
「いろんな味があると楽しいだろ。ジュンもさ、いろんなとこ見れて嬉しいよ。あんま心配すんなって」
「……心配なんてしてません。ただちょっと、……幻滅させたかと」
「ゲンメツ?」
「……がっかりされたかと」
「するわけないだろ!」
 びっくりして大声を出す。旬は今度こそ間違いなく迷惑そうに顔を引いた。慌てて謝る。
「中身がなんでも、ドーナツはドーナツだろ。ジュンのどっか一つだけ好きなわけじゃないんだから」
「ドーナツと比べられるのは心外ですが、……ありがとうございます」
「ドーナツいいじゃん。ジュンは? オレと何なら比べられる? 猫は?」
「……ベクトルが違いすぎます」
「ベクトル……」
「……そうか、ベクトルでも解けるか」
 旬は急いでドーナツを口に詰め込む。手を拭くとペンを掴んで猛然と書き込みを始めた。春名はその様子を眺めながら、残りを食べる。ベクトルの意味はよく分からないが、猫と比べられないくらい好きってことでいいんだろうか?
 旬がペンを止める。春名を見上げて微笑んだ。
「出来ました」
「おおっすげぇ!」
「ドーナツのお礼です」
「気にしなくていいのに」
「春名さんがドーナツを好きでいる、常にその二倍分、僕も春名さんを好きだと思ってください。それが僕の比較だと」
「……ジュンめちゃくちゃオレのこと好きじゃん」
「まあ、そうですね」
 恥ずかしげもなく澄まして答える旬に、春名は照れ笑いして、それから細い肩を抱きしめた。
20171019


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