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※ぬるいけどR15くらい
※付き合ってる
※オチないよ

 「そういうこと」をするとき、冬馬君の口に僕の指を突っ込むようになったのは、確かした回数が片手を超えた頃だったと思う。彼がちゃんと後ろで感じてくれるようになったのはいいけど、いつも声を我慢していて、酷いときには枕を噛んでこらえたりするもんだからむっとして指を入れてみたんだ。口を開けさせるためだったけど、どうしても声は出したくないみたいで指に吸い付いてきた。目論見は外れたけどそれはそれで悪くなかったし、それ以来いつも指をしゃぶってもらっている。


 レッスンが長引いて夜遅くなったので、冬馬君の家に泊まることにした。その方が事務所から近いし。今まで何回もそうしてきたから、家に電話を入れたらあっさり許してくれた。
 作り置きのおかずとご飯で夕飯を出してもらって、シャワーを浴びたら日付が変わるくらいの時間になっていた。部屋着を借りたついでにドライヤーも借りて、髪を乾かし終わった頃、冬馬君もシャワーから戻ってきた。
「冬馬君、僕が乾かしてあげよっか」
「いや別にいい」
「遠慮しないで」
「変なことすんなよ?」
「変なことって何?」
「巻いたりとか」
「しないよ〜」それも面白そうだけど。
「じゃあ頼むわ」
「はーい」
 床に座った彼の頭上からドライヤーをかける。冬馬君って結構髪長いし、硬めなんだな。濡れていても頭頂部から一房立ち上がってるのが面白い。ちょっとひっぱったら文句を言われた気がしたけどドライヤーの音で気付かなかったことにした。
「終わったよー」
「サンキュー。じゃあ寝るか」
「お先にっ」
 ぴょんと飛び上がって冬馬君のベッドに潜り込む。冬馬君は何も言わず電気を消した。
 ベッドに滑り込んできた冬馬君を正面から抱きしめる。冬馬君も片腕を回して抱き返してくれた。そのまま上目遣いで見上げる。もっとも部屋は真っ暗で、こんな至近距離でもほとんど顔は見えないんだけど。
「ね、する?」
 ちょっとの沈黙。
「……今日はダメだ」
「わかったー。おやすみっ」
 明日は仕事があるし、断られることは分かっていた。あっさり引き下がったのが意外だったのか、面食らったみたいな沈黙が一瞬あったけど、「……おやすみ」って返してくれた。
 冬馬君の腕が背中に回っててあったかいし、よく眠れそう。抱きついた姿勢でうとうとしていると冬馬君がそっと腕を引っ込めた。背中が寒い。トイレにでも行くのかな、って気にせず眠ろうとしたら、小さく声をかけられた。
「……翔太?」
 ちょっと迷ったけど、眠かったし、無視しちゃった。ほとんど寝てるようなものだし。
「寝たか……」
 うんうん、寝てるよ、って夢うつつで考える。まだ背中が寒いし、また抱きしめてくれたらもっとよく眠れるのに。
 冬馬君はそうっと身体を浮かせて、僕の両手の手首を掴んで腰から外した。やっぱりベッドから出るのかなって思ったけど、そのまま再びベッドに横たわって僕の腕を胸の前で抱え込むからちょっと驚いた。手の甲を手のひらで包まれる。手をとって動かされて、顔のあたりまで持ち上げられた。
「……ごめんな」
 えっと思う間もなく、指先にふにふにした感触が伝わる。指先にキスされたって思った。随分乙女チックな行為だ。そりゃ寝てる相手にしかできない。
 でもキスにしては執拗だった。何度も押し当てられたり、そっと唇の上を往復させたり。何をしているんだろうって疑問は次の瞬間あっさり解けた。
「……んっ……」
 冬馬君がかすかに漏らした声は間違いなく嬌声の類だった。いつもするときみたいな控えめな声。
 それで分かった。冬馬君は僕の指を舐めたいんだ。
 きっと冬馬君の気持ちいいって記憶は、僕の指と結びついてる。そういえば最近は最初から最後まで咥えさせっぱなしだったし。ことが終わったあともぼんやり舐めているときもあって、ちょっと不思議だったんだけど、指を舐めるの気に入っちゃったのかな。
 冬馬君は時々声を漏らしながら、僕の手を動かし続ける。口に含むのはさすがに遠慮しているのか、唇を延々触らされてる。もう眠気なんて吹っ飛んでしまった。起きて驚かせてみようかと思ったけど、冬馬君がどこまでするのか気になったからしばらく様子を見ることにした。
「ぅ……あっ……」
 なんだかいつもより声に遠慮がない気がする。僕が聞いていないと思ってるせいかな? 僕の寝つきのよさも知ってるし、起きない確信があるのかも。聞いたことないくらい甘い声。僕の手を道具にして、冬馬君が自慰みたいな真似をしている。あの冬馬君が。そう思ったら心臓がばくばくして、顔は熱いのに指先は反対に冷たくなって、バレるんじゃないかってひやひやした。起きてることに気付かれたら、きっとこんな声二度と聞けない。荒くなりそうな呼吸を必死で抑えて寝息を装う。
「は……ぁ……」
 唇だけじゃ物足りなくなったのか今度は頬を滑らせ始めた。頬骨のかたちをたどる。指先に睫毛が触れる。擬似的な頬ずりだって思った。普段の彼は絶対にこんなことしないだろう。寝てる僕だけじゃなくて、起きてる僕にしてくれてもいいのに。ちょっとだけ悔しい。弟キャラは甘える相手には向いてない。
 しばらく顔や首筋を滑らせて、冬馬君はとりあえず満足したみたいだった。軽く触らせただけで、大して刺激もなかったと思うんだけど。でもまあ、それを与えるのは明日の起きてる僕の仕事だ。年下だからって甘く見られてるばっかりじゃ嫌だ。偶然弱点も知れたわけだし。
 最後に彼は僕の手をとって、曲げた関節に口づけた。今度のは間違いなくキスだ。やっぱり乙女趣味だって思ったけど、王子様みたい、って一瞬思っちゃった僕も似たようなものかもね。


「翔太ー! 起きろ!」
「……」
「起・き・ろ!」
「……」
 声大きいなぁ。発声もしてない朝からよく出るな。眠いけどぐずぐずしてると冬馬君の起こし方って乱暴だし、半分寝たままなんとか洗面所まで歩く。ていうか寝不足の原因は冬馬君じゃない? 寝不足じゃなくても寝起きは悪いんだけどさ。だからこれはやつあたりだ。弟キャラの特権。
 顔を洗ってリビングに行くと二人分のカレーが並んでいた。朝から煮たのかな。さすがにレトルトかな。
「朝カレーはいいってCMでもやってただろ?」
「うーん……」
「まだ寝てんのかよ」
 呆れ顔で言われたけど、だから原因は君なんだって。当の本人は妙にテンション高いし。むっとしながらとりあえず目の前のカレーを一口食べたらとんでもなく辛かった。
「なっ……なにこれ!? からい!」
「目ぇ覚めただろ?」
「酷いよ……」
「悪い悪い。こっちがお前のだから」
 冬馬君が二人のカレーを入れ替える。スプーンも一緒に変わっちゃったけどいいのかな。僕それ使ったけど。
 僕の分のカレーは普通の辛さだった。よく見ると激辛の方は上から粉をかけて辛くしてあったみたい。ていうか冬馬君も辛そうなんだけどそれでいいの?
「楽勝……」
 嘘じゃない? だったらこっちも嘘ついちゃうもんね、なんて。これも弟キャラの特権?
「冬馬君、口にカレーついてる」
「え? マジか」
「そこじゃなくてー」
「どこだよ」
「じっとしててね」
 冬馬君の顔に手を伸ばすと彼は分かりやすく体を強ばらせた。ホント面白いなあ。そのまま指先で口の端を拭う。
「とれたよ」
 声をかけてやっと力が抜けた冬馬君に笑いかける。真っ赤になっちゃって、カワイイところもあるよね。これからもいろんなところ見せてね。もちろん、起きてる僕に。
20170906
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