百年永劫 | ナノ

百年永劫

 百年待ってほしいと頼城は言った。金の両目が煌めいていた。斎樹はこれまで頼城の頼みは大抵のことなら聞いてきたし、だから今回も頷いた。
「これを埋めて、百年待ってほしい。必ず戻ってくる」
 手渡されたのは青い瞳の眼球二つだった。微かに湿って柔らかいそれは手のひらに握っても冷たくも温かくもない。見上げると頼城の頭上に流星が流れて落ちた。そうして彼は姿を消した。
 素手で掘った穴に眼球を揃えて土を被せた。埋めたしるしに落ちた星を飾った。角のとれた流星は目玉に似て丸い。それを見張る位置に腰かけて、登った太陽を眺めて5年前を思い出す。斎樹巡が現在の斎樹巡として生を始めたあの日のことを。斎樹は記憶力に優れていたから、5年分の1日を寸分違わず再生できた。そうして5年間を過ごした。2周目が始まり3周目が始まった。繰り返すほど遠い記憶は曖昧に滲んでいった。待つ間に辺りは木が伸び植物が覆い森になっていた。そこは柊の守る場所だと気が付いた。彼には帰る場所があるのだなと思った。
「巡くんは、百年待つつもりなの」
 森から現れた片目の後輩は変わらない無表情で斎樹に問うた。悲しんでいるようでもあったし、憐れんでいるようでもあったし、慈しんでいるようでもあった。
「まあ……武器を振り回すよりも向いているからな」
 苦笑いで答えて気が付いた。何度再生しても揺るがない懐かしい言葉。始まりの記憶。
 百年なんて待ってたまるか。
20210102


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