コツは愛情 | ナノ

コツは愛情

カニバリズム

 かっとなって鵺雲さんを殺してしまったので、どうしたものかと三人で顔を突き合わせている。
「うちの裏庭に埋めれば良くない?」と俺。
「駄目だ。すぐに見つかる」と佐久ちゃん。
「僕の死体が迷惑をかけるね」と鵺雲さん。
「……………………」と死んでる方の鵺雲さん。
 鵺雲さんってば死んでると余計に血の気が引いて、めちゃくちゃ不気味なのに同時にぞっとするほど綺麗にも見える。それにいつもみたいにカンに障ること言わないし。意外とこっちの方が好きかも。
「山に捨てる? うちどっかに土地持ってた気がする」
「駄目だ。それじゃ足が付くだろ」
「もー、佐久ちゃんってば駄目出しばっか! ねー鵺雲さん、嫌ですねー」
「うーん、九条家の土地をあげられれば良かったのだけどね、それができない以上、僕からはなんとも言い難いな」
 確かに、九条家だったら捜査の手とか入らなそうだし、鵺雲さんを返すにもちょうどいいような気がする。まあ、この家出息子さんはそれを叶えられないわけだけど。
「あれも駄目これも駄目って、佐久ちゃんはどう考えてるの?」
 うっかり殺しちゃった自分のことは棚に上げて、佐久ちゃんにキツい口調で訊く。奴は重々しく息を吐き、いかにも熟考の末といった雰囲気で口を開いた。
「俺が食べる」
「はあ?」
 お前が食べたいだけだろ!
「それはさすがに駄目だ。絶対に赦せない」
「証拠を消すのが一番いい。俺ならできる」
「可能か不可能かの話なんかしてないだろ」
「大事なのはお前が捕まらないことだろう」
 睨み合う。佐久ちゃんは頑固だ。折れたのは赦し難いことに俺の方だった。
「……どうしてもって言うなら、俺も食べる」
「それなら僕も手伝わなければね。僕の体だもの」
 鵺雲さんはいつも通りやたらと涼やかに笑う。
 調理は佐久ちゃんがすることになった。お坊ちゃんの俺たちは料理なんかやったことないからね。死んでなお存在感のある体を佐久ちゃんがお姫様抱っこで抱え上げ、いそいそと台所へ向かう。なんかいかがわしいことするんじゃないだろうな?
 絶対に入るなと言い含められた台所の扉を開ける。俺が佐久ちゃんの言い付けを聞く道理とかないから。佐久ちゃんは別に下半身を露出などはしておらず、バリカンを片手に鵺雲さんに手を付けようとしていた。
「おい、入るなと言っただろ」
 佐久ちゃんは俺に怒る。構わず鵺雲さんに近付いて、しげしげと眺める。死後硬直が始まって関節が変な姿勢に曲がっている。
「剃るの?」
「一応な。俺もやり方なんか知らないからな、手探りだ」
「脱毛ワックスあるけど、使う?」
「お前、脱毛してたのか」
「指とかちょっとだけね。女の子受けいいんだよ」
 佐久ちゃんが死体より俺の方に興味を向け出したので、いい気分になる。とはいえいつまでもそうもしてられない。
「じゃあ任せたよ」
 彼は真面目くさった表情で厳かに頷いた。
 鵺雲さんとジェンガとかトランプとかしつつ、いい加減やることもなくなってきた辺りで、佐久ちゃんが鍋を持って戻ってきた。やっとできたかと食卓に着くと、佐久ちゃんは何往復もして大量の料理を机に並べた。鍋、煮つけ、唐揚げ、カレー、焼き肉、汁物、ハンバーグ、串焼き、茶碗蒸し、オムライス、肉まん、炒め物、ラーメン、八宝菜、春巻、回鍋肉、天ぷら、サンドウィッチ、カツ丼、パスタ、混ぜご飯、などなど。鵺雲さんって細いのに結構食べるとこあるんだな。
「いただきます」
 三人仲良く手を合わせて、それぞれが好きなものを取り分ける。鵺雲さんは豚汁(恐らく豚ではない)に口を付け、ゆっくり噛んで飲み下した。俺たちはなんとなく固唾を飲んでそれを見守っている。鵺雲さんは息を吐いた。
「佐久夜くんは料理が得意なんだね」
「得意、という程でもありませんが」
 それで俺らも料理に手を付ける。味付けが濃いせいか案外普通に食べられた。鵺雲さんは早々に箸を置いてにこにこと俺たちを眺めるだけになり、仕方ないから二人で平らげていく。佐久ちゃんの隣にデカめの鍋がある。お櫃かなんかだと思ってたけどどうも違うらしい。
「その鍋何?」
「主に内臓だ」
「俺も食べる」
「多分苦いぞ」
 佐久ちゃんが渋るのは、調理に失敗したから、それとも他の思いがあるのか? 俺も頑として譲らず、内臓を貰い受ける。
「心臓だね」
 鵺雲さんは静かに言った。
 大量の料理のほとんどは佐久ちゃんの胃に収まり、完全犯罪を成し遂げた俺たちはお行儀悪く畳に転がっている。
「佐久ちゃんは、俺が死んだ時もこうやって食べるつもり?」
 尋ねると、奴は首を振った。
「お前は死なせない」
 一番食べたがってるくせにそんなことを言う。変な奴だなぁと俺は思う。知ってたけど。
20241005


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