解答
カニバリズム / 死
「巡」
返事が返ってこないことは察していても、呼び掛けずにはいられなかった。
「巡!」
嘘みたいだった。昨日あんなにはしゃいで笑っていた顔は苦痛に耐えるように眉を寄せたまま固まっている。幸福にしてやれると思っていた。ようやく叶うところだった。
苦しげな表情を見ていられなくて、思わず布団を引っ張り上げて覆った。丈が足りなくなった足の方から生白い足首が覗いた。
巡が死んでいいはずがなかった。だってこれからじゃないか。不公平だろう。巡ばかり、どうして。
布団を被せた塊から伸びる足を呆然と眺めているうちに、ふと思う。
二人の身長はほとんど変わらない。体つきは違うが、大きめの寝間着を着ていれば大して差はない。恐る恐る布団を足元から捲り上げる。決定的に違う顔の部分だけは隠したまま、よくよく眺める。
死んだのは佐久夜の方だった気がしてきた。
左手を最初に切り落とした。一番違うところだから。違いは隠さなきゃいけない。どこに?
キッチンに圧力鍋がある。入れてみるとちょうど収まった。水を入れて火にかける。何時間か煮込んで、蓋を開けた。ふやけたそれを口に含む。
何の味もつけていない、まともな調理でもないはずなのに、人生で一番だと思った。このために生まれてきたみたいに。しばらく我を忘れて貪った。骨まで食べ尽くす。
全然足りない。
まだ大量にあった。
圧力鍋は何度も稼働した。しまいには待ち切れなくなってそのまま齧りついた。一日もかからず、跡形もなく彼は消えた。
俺は巡だ、と思う。
巡は幸せにならなきゃいけない。じゃあ、どうしよう。そうだ鵺雲さん。鵺雲さん、呼んだら来るかな? 会いたいな。あの人が俺の運命の人だって、俺は思うよ。ね、佐久ちゃん。
20240511