生 | ナノ

カニバリズム / 死

 冷たいはずの佐久ちゃんの手を熱く感じる。
 ということはもうだいぶ体温が下がってきていて、ということは俺はもう死にかけていて、もはや痛みもない。俺の肉を食い千切る佐久夜の歯の感触も分からない。触れあったところだけが熱い。
 内臓とか露出しちゃってて、どうしよう変な色してないかな?とか、乙女チックな心配をする。不味いって思われたらどうしよう! もちろんそんなのは杞憂で、佐久ちゃんはあんなに謝ってたのにすっかり忘れて何も言わずに夢中で俺に齧りつく。
 はらわたを食い進める佐久夜の頭のてっぺんだけが霞む視界に写っている。さいごの景色としてはこれ以上のものはない。俺を求める佐久夜。もう目が見えない。瞼を閉じる。
 俺たちが継いできた何百年と、俺たちが生きてきた数十年がようやく報われる。ぐるぐる繰り返されてきた茶番が結実して、俺たちはついに本懐を遂げる。最悪だった俺の人生は、たったこれだけのことでまるで全てが幸福だったみたいに、確かに今が一番幸せなんだけど。
 割と意識がはっきりしているのはなんでだろ、鵺雲さんと長いこと一緒にいたせい? それはなんかちょっとやだな。ああさいごに考えるのがあの人のことじゃ嫌だ。佐久夜。佐久夜佐久夜佐久夜。もう一回だけ顔が見たくて目を開け、
20240509


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