※死ネタ
僕はひとりきりで海辺を歩いている。砂浜に足跡がつく。僕から染み出した、僕のものではない血が転々とついているのが見えるようで、だから僕は不自然なくらいにまっすぐ前を睨んで、歩く。
前方をウンディーネが踊るように歩いている。楽しそうに、軽やかに歩く彼女の足跡は、僕のものよりずっと軽くて、小さい。ときどき振り返って、僕がいることを確かめては、笑う。僕も笑い返す。きっとうまく笑えている、そんな気がする。
僕の傍らにマーメイドが控えている。眩しそうに主人を見て、それから僕の方を向いて、柔らかに笑う。ねえ、私のご主人さま、素敵でしょ。僕は微笑む。ああ、とても素敵だ。
反対側を見ると、サミダレがふわふわと浮いて、真剣なまなざしで波打ち際を見つめている。まるで波のパターンを発見しようとしているみたいに。少し大きな波が打ち寄せるたび、彼女はまばたきをする。そんな様子がほほえましくて、愛おしかった。
後ろから何かがぶつかってきて転びそうになる。踏みとどまって振り返ると、ベロニカとルリが腰に抱きついている。ベロニカは無邪気な笑顔を浮かべ、ルリは複雑な笑い方をしている。ベロニカをけしかけたのは彼女に違いない。軽く睨むと、首をすくめた。思わず噴き出したら、彼女も笑った。
砂浜には暖かな日差しがあたって、空気はとても柔らかい。たくさんの笑顔と笑い声が満ちる。彼女たちと一緒にいれば、ずっと笑っていられると思った。とても幸せだった。
気付けばウンディーネの姿はなくなっている。慌てて周りを見渡すと、赤く染まった砂浜に散らばった、貝殻、花びら、ブレスレット、金属のかけら、
僕の手にはワダツミが握られている。彼女たちを殺したのは僕だと、なぜかはっきりと知っていた。
目の前に弟が立っている。また僕は大切な人を殺すのだろうか。それとも彼に殺されるのだろうか。どっちでも大した差はないのだろうと思った。
20150704