過ちなんて言わせない | ナノ

過ちなんて言わせない

攻めの口淫

 背徳感は快を増幅させるものだろうと思う。ということは、幼馴染みとの行為が気持ち良いのは自分が後ろめたさを覚えているからだ、と巡は倒錯した安堵を抱く。
 脚の間に跪いた佐久夜を見下ろす。この体勢だと前髪の分け目から覗く白い額と濃い睫毛と鼻先くらいしか見えない。代わりに熱い舌の蠢きだとか喉の奥の柔らかい感触だとかは嫌というほど感じ取れた。気持ち良すぎて、いつもすぐに限界が来る。彼の頭に手を伸ばして、硬い髪の毛を掌でくしゃくしゃに掴みながら口の中に出した。
 佐久夜は無表情に精液を飲み込む。いつも彼はそうした。躊躇も感じさせず淡々としている。この行為に僅かな罪悪感なんて抱いているのは巡だけかもしれない。
 巡はまだ妻との間に子供を授かれていない。結婚して一年も経っていないのだから当然のことで、表向きは誰も焦ってなどいない。それでも巡は妻が毎日体温を計っていることを知っているし、営みにあれこれ工夫を取り入れていることを知っている。巡はもちろんその全てに賛成して、全てに協力している。将来的に必要になれば検査でも治療でも厭わないつもりでいる。毎月、だめだった、と聞く度に苦い気持ちになる。
 その上で、時たまこうして幼馴染みと性的なことに耽った。子供になれたかもしれない何億が胃の中で死ぬ。裏切りだ、と思う。
 巡は妻のことをちゃんとかわいいと思えている。家柄としてはやや格下だったが、家庭的な雰囲気のある娘だった。前向きで、努力家だ。子供が欲しいというこちらの事情も受け入れてくれている。こんなに良い娘と結婚できたのがどれだけ幸運なことか、わざわざ考えるまでもなく理解している。
 それでも、妻と抱き合うより、彼女と子供を作ろうとするより、佐久夜の口に咥えられる方が遥かに気持ち良くて、興奮した。
 巡の脚の間を拭っている彼の喉が時折上下するのを、呼吸を整えながら眺める。佐久夜が、口の中に残った精液を飲み込んでいる。どうなったって無駄には違いないのに、洗い流されるよりは彼の中に取り込まれる方が嬉しいと思ってしまう。また欲情しそうになって目を逸らした。
「終わったぞ」
 声を掛けられて、腰を浮かせて服を着直す。それを見届けて立ち去ろうとする袖を引いた。
「ねえ、俺もしてあげようか」
「駄目に決まってるだろ」
「なんで」
「汚いから」
 逞しい男が無愛想な顔で、恥じらう少女みたいなことを言うものだから可笑しかった。
「なんで俺にはしてくれたんだよ」
 最初に頼んだとき、自分は何と言ったんだったか。してほしい、あるいは、しろと言ったんだっけ?
 実際のところ、従僕に性処理をさせたところで不貞になんてなるわけがなかった。誰が糾弾できるはずもない。妻が知ったところで何の問題にもなりはしない。それでも、裏切りだと思っておかないと巡の大事なものが折れるような気がしている。だって佐久夜は巡の親友だ。
「……親友、だからな」
 そう答える佐久夜が視線を伏せた理由に、巡は気付かないように気を付けている。気付いてしまえばきっと不幸になると分かっている。もうとっくに幸せなんて見失っていたけれど。
20230808



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