始めから決まってた | ナノ

始めから決まってた

モブが喋る

「狙っちゃおうかな。本気で」
 日和が冗談めかして言うので、私は顔をしかめて引き気味の反応を返す。
 はたから見ていても、最近の日和は彼に結構熱を上げている。巡とかいうその男に私は会ったことがないけど、日和経由で話はよく聞いていた。ほんと言うと、聞いてる限り魅力の分からない男ではある。
「相当遊んでるんでしょ? 絶対やめといた方がいいって。それかそんなにイケメンなの?」
「顔は別にかっこいいって程でもないんだけど。でも悪くもないし、身長あるから」
 女好きで特別かっこよくもないのに、一体そんなののどこがいいのって訊くと日和は勢い込んだ。
「気遣い凄いし、話面白いし……」
「それは遊んでるからじゃん」
「でも優しいんだよ。そういうチャラさじゃなくて、本当に優しいの」
 まあ、私は彼のことを知らないからな。日和が傷付くところを見たくはないけど、彼女が好きになったのなら、本当に良い人なのかもしれない。
「今度、見に行くんだ」
 日和は何か聞き慣れない言葉を言って、嬉しそうに笑っていた。

 だから、見に行かなければ良かったって泣く彼女にどう声をかければいいのか分からなかった。
「……そんなに酷かったの?」
「ううん、逆、凄かった、巡って凄いんだって分かった」
「……距離感じちゃったか」
 ティッシュで目元を押さえる日和の耳には、初めて見るピアスが下がっている。少し厳つい印象の大きなピアスは彼女によく似合っていたけど、薄い耳たぶには痛々しく重たげでもあった。
「……巡に会いに行く。巡に会いたいから」
 ある意味当然みたいなことを言う日和は、もう何が起こるのか知っているみたいに悲痛な色の表情をしていた。だからやっぱり、そんな顔をさせる男は日和に相応しくなくて、そんな顔をしてしまう彼女は巡に釣り合わない。分かりきった結末をなぞりに行く彼女のために、私は今からかける言葉を探している。
20221223


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