ハッピーエンドにつれてって
汚物表現 / 暴力
朝から佐久夜の車がなかったから、遡ればそのせいだ。
酒臭い。あとは吐瀉物とかその他汚いものの臭い。気化したアルコールが頭を鈍らせてなんだかよく分からない。酷いことをされているはずなのに愉快な気分ですらある。
知らない間にそれなりの恨みやら妬みやらを買っていたらしい。お坊ちゃんだから仕方ないねって笑っていたけれど相手にとっては笑えるものではなかったらしく、だからこうして何人もに襲われて路地裏の暗がりに転がる羽目になっている。そんなに抵抗する気もなかったし金で済むならいくらか恵んであげようとまで思っていたのに、いきなり腹を殴られて、あとはもう暴力の嵐だった。ちょっと、こっちは覡なんですけど。お前らなんかよりずっと価値のある身体なんですけど。とか言ったら骨までやられそうだったので、おとなしくなすがままにされていた。顔以外のあらゆるところに蹴りが入っても飲みかけの安酒を頭からぶっかけられても無言で耐えた。なんでこんなことされてんだろ。彼氏のいる子には言い寄ったことないんだけどな。運命の相手ならきっと最初で最後だろうし。俺の、俺だけの運命。
ぼうっとしてる間に誰かが性器を取り出して、そこから雰囲気がおかしくなった。多分最初の一人はそんな気はなかったんだろう。でも中にはアルコールと暴力からくる興奮でおかしくなってる奴もいて、それを握らされて、抵抗しないと分かると簡単にエスカレートしていった。
他人のを舐めさせられてるところとか自涜させられてるところとか、全部写真に撮られて、フラッシュが光るのが稲光みたいだな、と思った。光る度に全てがどうでもよくなっていくのが分かった。本当は最初からどうでもよかったのかもしれない。車がないのを見つけた時から。
ついにろくろく慣らしもしないまま捩じ込まれて、痛くて苦しくて最低の気分のはずなのに、潤滑剤代わりに酒を流し込まれて思考が壊れた。酩酊。男たちの奇妙な熱狂が移って身体が興奮していく。腹を晒したりうつ伏せに犬みたいな姿勢になったりあらゆる屈辱的なポーズで犯されたのになんだか気持ちよくなってたような気もする。笑いたい気分だった。
頭がふわふわしていつ終わったのかも曖昧だ。気付けば彼らはいなくなっていて、酷い臭いと全身の痛みが凌辱の気配を残していた。ブランドものの服は酒と精液とその他汚いものでどろどろだった。お坊ちゃんなのでお高い服の一枚や二枚全然痛くもないけど。二度と着れないのは、それはちょっとだけ悲しい。
アルコール臭い服のせいでいつまでも酔いが抜けない。立ち上がる気力がない。誰か助けに来てくれないかな。俺の、俺だけの誰か。王子様でもお姫様でもいいから。
朝から佐久夜の車がなかった。
電話を掛ければきっと佐久夜は迎えに来てくれるだろうし、この惨状を見て正しく対処してくれるだろう。でももし迎えに来るのに時間が掛かったら、それどころか電話に出るのに何コールか掛かったら、それだけできっと自分は折れてしまう。惨めになりそうになるのを全部怒りに変換して燃やしながら立ち上がる。動き出してしまえば案外簡単な話だった。深夜の街をふらつきながら歩く。誰もいなくて助かった。誰かに見られたとしても酔っぱらいにしか見えないだろうけど。もっと分かりやすく壊れるくらいにめちゃくちゃにされたって良かったのに。
なんとか家に帰り着いた時、佐久夜の車はなかった。今度こそ声をあげて笑った。
20221109