国王ハルナの愉快な一日 | ナノ

国王ハルナの愉快な一日

 ここはもちろんパラレルワールド。王であるハルナは早くに国王だった父親を亡くし即位したものの、母が政治を行ってくれているので、しょっちゅう下町に降りては身分を隠してバイトに明け暮れていたのだった。まあ正直政治はよく分からないし、ドーナツ代くらいは自分で稼がないと国民に悪いと思ったので。
 そして今日もハルナは城を抜け出した。ひとまず近くの森に身を潜め、マントを脱いで足元に落とした瞬間、そこから煙が立ち上り、一人の男が突然現れた。大きな帽子に派手な服、目元には涙マークのペイントと眼鏡をかけた、綺麗な顔立ちの少年だ。驚くべきことに宙に浮いている。彼は元気よく挨拶しようと口を開き、煙を吸って咳き込んだ。

「えほ! げほっごほっ……んんっ。あーあーあー。ハーイ、はじめましてハルナっち国王! ご機嫌うる……うる……? うるしゅうっすか?」
「すげえ咽せてんじゃん大丈夫? オレは大丈夫だけど」
「ドライアイスは喉に良くないっすよねー……あ、オレ、ジョーカーのシキです」
「オレはハルナ……って知ってるか」
「もちろん。有名っすよ、ドーナツで。てかオレ、ハルナっち国王に予言を授けに来たんすよ。ハルナっち国王は近いうちに運命の人と出逢う運命なんす!」
「え、マジ?」
「大マジっす。ちょっと待ってね」

 ジョーカーのシキが指を鳴らすと、ハルナの周りにもうもうと煙が立ち込め、二分くらいしてそれが薄らいできた頃にはハルナはすっかり下町ボーイといった服装だった。
 シンプルな麻の白シャツに黒のズボンという自分の格好を見下ろしながら、これくらいオレも用意してたんだけどな、とハルナは思った。思ったけど言わなかった。代わりに自分の持ってきた着替えをこっそり藪の中に蹴り込んでおいた。

「お似合いっすよ! イケメンは何着てもサマになりますね」
「えーマジ? サンキュー。で、この後どうすんの?」
「昼頃に広場で運命の人がチンピラに絡まれる予定なんで、そこをー……」

 そのとき、ハルナの背後でガサガサと音がした。何者かが森の中を接近してくる。ハルナは腰を落として構え、シキは浮いたままとりあえず腕組みしてそれっぽいポーズをとった。音はどんどん大きくなり、そして何者かが木の向こうから姿を現した。

「ハルナー! また抜け出して何やってんだよー!」
「おっと。なんだハヤトか」

 現れたのはハルナの従者であるハヤトだった。一応国王であるハルナにも遠慮しない。彼らは年が近く、配属されてすぐ友人としての関係を築いたので、主従関係はお互いそんなに意識していなかった。

「なんだってなんだよ。なーサボるのはともかくお城抜け出すのはマズいって。戻って、円柱の両端に革を張ったやつを棒で叩く練習でもしようぜ」

 円柱の両端に革を張ったやつを棒で叩くのは普段のハルナなら喜んでする趣味だったが、今日ばかりは違った。なんたって運命の出逢いが待っているのだから。シキから説明してもらおうとハルナは振り返り、唖然とした。

「ハルナっち、その人……どなたっすか……?」

 シキはまるで乙女のように胸の前で手を組み、眼鏡の向こうの緑の瞳をうるうるさせてハヤトを見つめていた。若干高度も上がっている。
 戸惑うハルナをよそに、シキはぴょこんと頭を下げた。

「オレ、ジョーカーのシキです! あなたは?」
「俺は国王のお付きのハヤト。よろしくな!」

 ハヤトはキラキラの笑顔で答えた。

「ハヤトっち……よろしくっす! 末永く!」
「え? うん、よろしく!」

 ハヤトはハルナに向き直って、「知り合い?」と尋ねた。もちろんさきほど初対面を済ませたばかりだが、そう言ったら一応従者のハヤトの立場が悪くなりそうなので、ハルナは「うん」とだけ答えた。

「そうなんだ。悪いけどシキ、今日はおしまいだ。俺こいつを連れ戻さないと」
「それは困るっす! 予言が成就しないと評価下がっちゃう! 留年は嫌っすー!」

 意味は分からないが「留年」というのは恐ろしい響きだな、とハルナは身震いした。
 シキは地面に落ちていたハルナの服を拾い集め、ぱちんと指を鳴らした。一瞬煙が立ち上り、次の瞬間シキは眼鏡とペイントはそのままに王の装束を身にまとっていた。さっきのオレの着替えはなんだったんだろうとハルナは思ったが口には出さなかった。

「わー! 今のどうやったの?」
「すごいっすか? オレカッコいい?」

 ハヤトがキラキラした瞳で話しかける。シキはぱっと顔を輝かせて得意げに再び魔法を披露しようとしたが、半目で見ているハルナの視線に気付いて腕を降ろした。咳払いをする。

「オレがハルナっちの代わりをするから。お昼には絶対広場にいること! オレもそっちにいるようにするっす」
「マジで? どう見てもオレじゃないけど」
「大丈夫、魔法でそう見えるっすから」
「わざわざハルナにならなくても、お昼だけ下に降りるなら普通にやってもバレないと思うけど……」
「いや、今日シフト入ってっから行かなきゃ」
「なんでそんなバイトガチ勢なんだよ……」

 とにかく三人はここで別れることになった。「じゃあお昼に広場で!」シキはそう言い残すとハヤトと手を繋ぎ、指を鳴らして消えた。
 ハルナは太陽を仰ぎ見て、バイトの時間を過ぎていることを知り、走り出した。

□ □ □

 一方その頃城下街では、隣国の女王ジュンが側近の剣士ナツキのみをお供にお忍びで視察兼観光をしていた。
 石畳が特徴的な、なかなかお洒落な街並みだ。噂ではツインテールの少女がPV撮影を行ったとか。PVとはなんだろうか。余談だがその少女は実は少年であるらしいとも言われている。 
 ジュンは、王冠を手荷物の中に隠し、腰から伸びた長いフリルは隣を行くナツキに預けて歩いている。今のところ女王であることはバレていないようだ。ナツキの整った容貌は人目を引きそうだったが、彼は気配を消すことに長けていた。という訳で小柄と影薄の二人組は時々足を踏まれつつも楽しく買い物ができていた。

「ジュン……こっちは、珍しいもの、たくさんあるね」
「そうだな。海に面してるから、貿易が盛んなんだよ。うちとも国交は盛んだけど、もう少し強い繋がりを作っておくと有利かしれないな」
「物知りだね……。ジュンがお嫁にいくのはダメだよ」
「まあそれも手段の一つだよ」
「ジュンは手段じゃないよ……」

 ナツキはわずかに眉をひそめて不満げな様子を見せた。ジュンは笑って、前方を指差す。

「ほら、そろそろお腹空かないか? 向こうに広場があるよ。行ってみよう」

□ □ □

 ハルナはバイトをクビになっていた。少し遅れたくらいで、と思ったが社会とは厳しいものなのだ。それに代わりに入ったという三人組はそれぞれ花束、ぬいぐるみ、炊飯器を抱えていてちょっと関わり合いになりたくはない感じがあった。バイトのプロなのだという。なんだよそれとハルナは思ったが例によって黙っていた。
 ともかく突然時間があいてしまった。お昼というのが南中時刻を指すのだとすればもう少し、ちょうどドーナツか何かを食べるくらいの時間はある。ハルナは空気の匂いを嗅ぎながら歩いて一軒のカフェを見つけた。

「いらっしゃいませ! どのケーキにしますか?」

 店内に入るとショーケースがあり、その向こうで、髪を編み込みにした可愛らしい少年が微笑んでいた。何故ケーキに限定してくるのだろうと思いつつも、見るとドーナツもちゃんとあった。

「あ、そのドーナツください。持ち帰りで」
「ドーナツ……? ドーナツなんてありませんよ」
「え? あるじゃんそれ」

 ハルナがショーケースの中のドーナツを指さすと、少年は納得して頷いた。

「ああ、揚げリングケーキですね」

 さすがのハルナもこれだけは見過ごせなかった。

「違ーよ! ドーナツ!」
「揚げリングケーキ!」
「ドーナツ!」
「ケーキ!」
「ドーナツ!」
「ケーキ!」
「ドーーナツ!!」
「ケーーーキ!!」
「うるさいですよ。お客様に迷惑です」

 いつの間にか厨房から細い目をした男性が顔を出していた。穏やかな口調ながら威圧感がある。二人はしゅんとなって、その後は粛々とドーナツと貨幣の交換を行った。

「熱くなっちゃってすみません。俺の奢りでちょっとオマケしておきましたから」
「サンキュー。こっちこそごめんな」

 甘いものを愛する者同士、なんとなく連帯感が生まれていた。少年はマキオ=ロール=エイプリルと名乗り、ハルナを『甘党会』に勧誘した。

「さっきのパティシエの人とかを含めた四人で、時々集まって甘いものを食べてるんです。それと、もう一つ裏の目的があって……」
「え、何なに?」

 もし革命とかだったら嫌だな、と思いながら訊くと、マキオは声をひそめた。

「実は……『究極の甘党』なる存在がいるらしいんです。その人は名前を聞いただけで甘党と分かるんだとか。その人を探してるんです」
「究極の……甘党……?」

 ちょっと拍子抜けしつつもマキオの真剣な表情にハルナも思わず真剣に聞き返す。マキオは肩をすくめた。

「まあ噂なんですけどね。探してどうしようって訳でもないんですけど、裏の目的とかあると面白いし。秘密結社みたいで……って言うとヒデオさん嫌がるんですけど」
「なるほどなー」

 ヒデオって誰だよとは思ったが訊かなかった。とそのとき、ドアベルが鳴り、男が入ってきた。ちょっと見かけないような、てかてかした青いジャケットを羽織っている。漂う不良っぽい雰囲気に、マキオの顔がこわばる。ハルナもショーケースの前を離れつつ、こっそりいつでも飛びかかれる体勢をとった。

「いらっしゃいませ。どのケーキにしますか?」

 緊張しつつもマキオはぶれない。客は「クミンとかターメリックとかその辺」とぶっきらぼうに答えた。ケーキだってのに。

「え……カレーのスパイスですか? うちケーキ屋ですけど」

 「カフェです」と厨房からかすかにツッコミが聞こえた。客は顔を赤くし、舌打ちした。

「クソッ、ショウの奴……また騙しやがった……!」
「トマーシュ君が騙されるのが悪いんだよ」

 いつの間にか店内にもう一人少年が入り込んでいた。先客と揃いの青いジャケットを着ている。

「ああ!? だって海沿いだから香辛料あるってテメーが……!」
「このお店とは言ってないじゃん」
「んなっ……テメ……」
「ホント面白いよねー、トマーシュ君。そんなだからあまとうとか呼ばれちゃうんだよ。甘ちゃんトマーシュ君」
「あまとうって呼ぶな!」

 ハルナとマキオは思わず顔を見合わせた。まさか彼が『究極の甘党』なのか。真相は気になったが時間がだいぶ経ってしまっていた。ハルナは後ろ髪を引かれつつもマキオに手を振った。

「今日はサンキュー。甘党会のこと、考えとく!」
「うん、ありがとう! またどうぞ!」

 店を出たハルナは広場へ急いだ。早い歩調に合わせて消費されるカロリーとドーナツ。
 広場の手前まで来てなんとなく辺りがざわついていることに気付いた。周りの人に話を聞くと、広場に不良がいるらしい。ハルナの脳裏に『究極の甘党(仮)』とその連れらしい少年の姿が浮かぶ。まさか集団で暴れようというのか。ハルナは人垣をかき分け騒ぎの中心へ向かっていった。

□ □ □

 時間は少し遡る。ジュンとナツキは広場にたどり着いた。さっきの地点からほんの数十メートルだったが、その道のりの間にナツキは三回足を踏まれジュンは二度ぶつかられた。また露店の指輪にナツキが異様に興味を示すなどの出来事があり二人はちょっと疲れていた。

「だって……ジュンが喜ぶかと……」
「気持ちは嬉しいけどさ、ああいうお店はやたら値段が高いこともあるからね。また今度にしよう」
「ジュンは俺の指輪、いらない……?」
「そういうことじゃないだろ。ほら、お腹空いたよな?」
「うん……」
「せっかくこっちまで来たし珍しいものが食べたいよね。伝統料理か、海外の輸入もの?」
「えっと……カレー……とか?」
「ああ、いいな」

 二人は店を探すために立ち止まって辺りを見回した。が、それがまずかった。ナツキの存在に気付かなかったのか、誰かが思い切り後ろからぶつかってきたのだ。

「ぎゃおおおん!」
「ナツキ! 大丈夫か!?」

 ぶつかった方とぶつかられた方は両者ともよろけて地面に手をついた。ジュンはナツキを助け起こし、もう一人に手を差し伸べようとしたが、先に連れの二人組が助けていた。
 そのまま謝罪して立ち去ろうとするジュンとナツキの腕を、二人組が掴んだ。二人は一気に緊張する。身分がバレたのか、因縁をつけられるのか。恐る恐る振り返ると、三人が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「すまんかった! そちらに怪我はないかのぉ?」
「え? えっと……」
「俺は大丈夫……です」

 外国の人なのかな、とジュンとナツキは顔を見合わせた。珍しい桃色の髪と、特徴的な喋り方。もう一人は背が高く、片目を隠している。その二人に挟まれた華奢な少女はひときわ申し訳なさそうだった。

「ごめんね、僕がぼーっとしてて……。またドジっちゃった」
「ううん……俺も、急に止まってごめん……」
「うう……ごめんね、ありがとう。それじゃ……」
「さよなら……。えっと、……お嬢さん」
「ぎゃおおおおおおん!!」

 ナツキが迷いつつも紳士らしい一言を付け足すと、少女はさっきより大きい悲鳴をあげた。

「僕、男の子ですよ〜!?」
「ええっ!?」

 ナツキもジュンも驚いた。目の前の人物は服装も女性らしかったので。視線に気付いて彼は恥ずかしそうにスカートを抑えた。

「これには理由(ワケ)が……ちょっとベルギーに行ってて……うう……」
「……気にするな、リオン。ちょっと時期が近かっただけだ」

 片目の青年は華奢な少年の肩に手を添えた。
 青年と桃色の髪の少年は揃いの赤いジャケットを羽織っている。その男性らしい格好のせいで余計に中央の少年の女性らしさが際立っていた。傍目には少女に付き従う従者二人組のように見えないこともなくもない。しかも桃色の髪の少年には黒服の男が二人、遠巻きに護衛しており、なんか関係がよく分からないことになっていた。

「あの……、ほんとにごめん……男の子とは、思わなくて」
「気にしないで、こんな格好してる僕が悪いから……」
「……ごめん」
「……さあ、行こうか。待たせている」
「おう。じゃあの! いろいろすまんかったな、お二人さん。デート、楽しんで」

 今度は二人が悲鳴をあげる番だった。

「デートってなんですか!? 僕ら男同士ですよ!?」
「ジュン……! ふふ……デート……」
「そうじゃったのか!? すまんてっきり……ワシより小さいし……」
「確かにそうですけど違います。僕は男です」

 ジュンは肩書きこそ女王だがれっきとした男性である。今も昔も。

「まあ、これでおあいこということで。それでは」
「ええ、それじゃあ」

 二組は円満に別れようとした。しかしそのときだ。

「こらーっ! 喧嘩はよせー!」

 一人の青年が駆け込んできた。

□ □ □

「ぎゃおおおおおおん!!」

 ハルナが広場になんとか潜り込んだとき、高い悲鳴が辺りに響いた。ちょっとして、男の叫ぶ声。これは完全にアウトだ。ハルナは一層急いで叫び声のした方へ進み、ようやく人混みを抜け出した。
 そして見つけたのは先ほどの『究極の甘党(仮)』と色違いのジャケットだった。
 少女を挟んでジャケットの男二人が立っており、その正面には小柄な人物が向かい合っている。ハルナは恐喝であると判断した。そして拳を握り締める。これでも一応国王なのだ。

「こらーっ! 喧嘩はよせー!」

 地面を蹴って飛び出す。真ん中に割り込み、ジャケットの二人を交互に睨みつけた。片目の方は無表情に見返し、桃色の髪の方は目つきを鋭くする。一触即発の雰囲気が漂うが、小柄な少年が更にハルナの前に割り込んでそれを制した。

「待ってください。多分誤解されてますよ。僕ら別に喧嘩とかしてませんから」
「でも悲鳴がしたから……」
「あれはちょっとした勘違いです。すみません、僕らもう行くので」

 少年はすっと離れようとした。そのとき、上空から声が響いた。

「あれ、ハルナっち、運命の人見つけたんすね!」

 広場にいた人々が一斉に空を見上げる。そこには派手な衣装に戻ったシキが浮かんでいた。ハヤトを姫抱きにしながら。ハヤトは恥ずかしいのか怖いのかシキにぎゅっとしがみついて顔を隠している。

「え? 運命の人って……この?」

 ハルナは正面の少女を指差す。ハルナの認識の中では彼女は完全に男二人を従えるスケバンである。三人はぎょっとして声をあげる。

「え? え? 僕男の子ですよ?」
「……リオンに手を出す気か?」
「ええ根性しとるのぉー」
「違う違う。逆っす」
「逆って……こっちの?」

 ハルナは振り返って小柄な少年を指差す。シキがうなずくのとどこからか拳が飛んでくるのは同時だった。
 ハルナはバイトでそれなりに鍛えているし、喧嘩にも巻き込まれたことはあったが、存在を認識出来ていない相手から殴られるのは初めてだったのでモロに顔にパンチを受けてしまった。ただしその拳はごく軽かった。今殴られた?と戸惑う程度には。

「ふざけないで……」

 小柄な少年の隣に美形の少年が現れていた。いや、元々いたのだが影が薄くて見えていなかったのだ。
 彼は綺麗な顔に怒りをにじませていた。非力なパンチと違い視線は鋭い。ハルナは冷や汗をかいているのを感じた。

「……えっと、僕らはもう行こうかなーなんて……トマーシュくんたちと待ち合わせしてるし、ね」

 リオンたちはそっと後退り、足早に離れていった。正体を確認していないので後を追いたかったがそうもいかない。ハルナは仕方なく少年二人と向き合った。

「えっと、オレはハルナ。あそこにいるシキに言われてここに来たけど、まだ全然結婚とかそういうの考えてないし、冗談だと思って許してくれない?」

 「……ハルナ?」小柄な少年は首をひねった。その隣で少年は怪しむような視線を向けたが、やがて諦めて息を吐いた。

「……ナツキ」
「ごめんな、ナツキ」
「僕はジュン」
「ジュンもごめんな」

 三人は和解したかに見えたが、上空でシキが騒ぐ。

「ちょっと、予言が外れちゃうじゃないっすかー! 困るっす!」

 またみんなが空を見上げる。また長引きそうな雰囲気が漂うが、そこでシキの首もとに顔を隠していたハヤトが顔をあげた。

「でもさあ、ナツキくんは予言が当たると困るんだよね?」

 突然声をかけられたナツキは驚いたようだったが、「うん」とうなずく。

「それにハルナもジュンくんも別に嬉しくないんだろ? 誰かを不幸せにしてまで予言って成就させる意味あるのかな?」
「全然無いっす。ハヤトっちの言うとおりっす」

 シキは一瞬で意見を変えた。

「でも何かしらの予言は成就させないと評価に関わるっす。そうだなー……」

 そしてシキはにっこり笑う。

「『みんな幸せになる』!」

□ □ □

 予言はいまだ成就していない。ナツキは最近指輪を買った。シキは予言の成就のためにナツキを手伝ったり逆に自分の恋愛を手伝ってもらったりしている。
 あれ以来五人はシキの魔法を使って頻繁に会うようになり、ハルナとジュンの国の国交はより盛んになった。最近はそれぞれの趣味を活かし、ピアノ、バイオリン、円柱の両端に皮を張ったやつ、ちょっと大きめのバイオリンみたいなやつの演奏に合わせてシキが歌うという活動を始めた。音はバラバラだが楽しい気持ちは一緒だ。
 予言の成就も遠くない。
20170527
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