地図を失くして
本当だったら、自分がこうして向かい合っているべきはどっかのお嬢さんだったんだと頭の片隅でちらと思う。それなのに巡が今服を脱がせようとしているのはそんな言葉とは程遠い頑強な幼馴染なのだから苦笑いしたくもなった。そんな余裕はもう残っていなくて、唇を合わせながら裾から手を差し入れてまさぐっているうちに冷静さはどんどん塗り潰されていく。
女の子の胸、結局触ったことなかったな。筋肉で柔らかい胸に手を這わせながら思う。でもこれはこれで結構気に入っている。感触も良いし、巡が執拗に触るせいか近頃では弄られている最中にこっそり息を詰めて耐えているような気配があって、──ものすごく興奮する。
彼の下半身に手をかける。布地が固く押し上げられていることに情欲と安堵がない交ぜになる。意地悪く布越しに形をなぞると普段鋭い目付きが熱っぽく蕩けて見上げてくる。腰を掴まれたところから重い痺れが広がる。
本当だったらこんなことにはなってなかったんだ。裾から覗く鍛えられた腹筋だとかにそそられるような趣味じゃなかったはずだし、欲情して抱く願望が腹の中に受け入れたいなんてものでもなかったはずだ。本当だったら。
定められた道からは随分離れたところまで来てしまって、もはや進んでいるのが道かどうかさえ定かではない。
それでも手を繋いでいるから、巡はどこまでだって歩いていける。
20220919