唯神論はびこる
両方結婚するし子供もいる(2部37話世界)
受けが死ぬ
巡が妻を迎えてから、彼の置かれた立場はほんの僅か変化したように佐久夜には見えた。覡に戻るかもしれないという儚い期待ゆえに責められていたのが、早く跡取りをもうけろという圧力に変わったのだった。どちらにしても立場が悪いことに変わりはなかったが、それでも舞奏を続けるよりはましだったのだろうと、佐久夜は半ば自傷する気分で思う。巡はあれだけ運命の相手にこだわっていたのが嘘のように、表向き飄々と軽薄に日々を送っていた。
巡の元に化身持ちの子が産まれた時は大騒ぎになった。佐久夜はその知らせを同じ社人から聞かされた。お産は栄柴の家で行われたので、どうせならば巡の口から聞きたかったと過ぎたことをちらと思った。
化身持ちを産んだ彼ら夫婦は手のひらを返したように歓迎された。それはある意味で彼らが人々の興味から外されたということだった。佐久夜は変わらずに巡を支えようと再び心に誓い、巡も佐久夜には変わらず甘えた。
巡は子供を可愛がっていた。意外に思えるほど過保護だった。幼いうちは佐久夜にも抱かせてくれたが、大きくなるにつれて会わせることすらしなくなった。理由は見当も付かなかったけれど、佐久夜はそれを受け入れた。
子供は覡になることが当然のように思われていた。巡はそれに苦笑いしていたが、それでも舞奏に触れさせないという選択肢はなかった。初めて稽古場に入った時、幼いその子は幼いなりに周囲の期待を感じていたのか、小さな手を伸ばして鈴を握った。付き添っていた佐久夜はその瞬間巡に締め出された。初めてだから家族だけの思い出にしたかったのだろうか。違うのだろうな、と思った。
その晩、巡が秘上の家を訪れた。久し振りだね、お泊まりなんてさ。相も変わらず彼はけらけらと楽しそうに笑っていた。示し合わせたわけでもないのに揃いのピアスが二人の耳に下がっていた。
そうして乞われるまま命じられるままに佐久夜は巡を抱いた。初めてとは思えないくらいに上手くいった。だから佐久夜は巡の気持ちを悟ったような気になった。
「佐久ちゃんもさ、奥さん迎えなね」
佐久夜に寄り添って巡は言った。とりとめのない話をたくさんした中で、それだけ少し声色が違った。
「栄柴には秘上が必要なんだよ。うん、多分、そう……」
巡は眠たそうにしていた。眠ればいい、と髪を撫でると子供のように嫌がった。
「好きだったよ。佐久ちゃん」
ほとんど眠りながら彼は言った。わざわざ過去形にしていたから、佐久夜は彼を抱き締めなかった。
佐久夜も妻を娶った。巡は大げさなくらい喜んで佐久夜を茶化した。巡の子から見れば随分年下になるが子供も産まれた。化身は無かった。
栄柴の化身持ちの子は覡になることが決まった。それからしばらくして巡とは二度と会えなくなった。栄柴の跡取りの舞奏は素晴らしいものだった。佐久夜の罪は赦されることはない。
20220129