だいたい恋愛 | ナノ

だいたい恋愛

佐久鵺匂わせ / 鵺巡 / 佐久巡
鵺雲の男性経験匂わせ
巡と佐久夜が可哀想

 巡は察しの良い人間だったし、こと幼馴染に関しては自分でも笑えるくらいに敏感だった。
 佐久夜はその日も変わらず静かに佇んでいたし、鵺雲も普段通りに薄い笑みを絶やさなかった。何にも気付かなければきっと普通の一日で終われた。気付きたくなかった。二人が交わす視線やら立つ距離感やらの微妙な変化なんて無視してしまえば良かった。それでも巡だけが気付かないふりで気を使ってやるなんて絶対にありえない。
 たかだか一度か二度! 夜を共にしたくらいで劇的に何かが変わるわけないじゃん、と自分に言い聞かせる。巡自身は他人と性的な関係を持ったことはまだないけれど、それで世界が一変するなんて少女漫画めいた幻想はとっくに捨て去っている。たかだか性行為じゃん。みんなしてるし。ついに佐久ちゃんも卒業したんだ、ひゅーひゅー。しかもあの九条鵺雲と! すごいじゃん。おめでとー。
 どうして俺じゃないんだ。


「特別なことじゃないよ」
 巡が少女みたいな夢を持っているとでも思ったのか、その人は薄く微笑んで緩く首を傾げた。腹立たしいくらいに整った顔をしている。だから巡は笑い飛ばしてみせる。ことさらに明るい声を出すのは得意分野だった。嫌な特技だ。
「俺だって別に大したことなんて思ってないですよ。したのかなーって気になっただけで。だって幼馴染だし? 気になっちゃうでしょ!」
「ちょっと下世話な気もするけれど」
 鵺雲は困ったように眉を下げるが、全く余裕を失ったように見えない。そのままゆっくりと身体を近付けてくると優雅な仕草で巡の肩に手を掛け、美しい顔を耳元に寄せて囁いた。
「佐久夜くんが僕にしたこと、全部してあげようか」
 ぞっとするくらい艶っぽい誘いだった。──それで分かってしまった。

 佐久ちゃん。
 今だけはその人をそう呼んでいいと言われたからそうしている。煽られていると分かっていて挑発に乗っている。名前が喉を通る度に大事な何かを壊しているような気がしていて、だからその人を幼馴染の名で呼ぶのを止められない。巡の部屋でことに及んでいるのも冒涜的だ。本当に佐久夜が相手でも、この部屋でするだろう。
 佐久夜のそれよりもずっと繊細にできているように思える白い指が巡の腹の中を触っている。一本目の時点で絶対に無理だと思ったのに今ではどれだけ拡がっているのか考えたくもない。鵺雲の指がどこか決まったところを押し潰すと身体が跳ねて変な声が出そうになる。それを知っているような態度だから、ひょっとすると鵺雲は随分慣れているのかもしれない。経験がないことを悟られたくないと思った。この男に隠し事などできるはずがなくても。
「入ってもいいかな」
「う……うん、佐久ちゃん……」
 佐久夜ではないことなんて分かっている。だから巡は目を瞑って頷いた。
 ゆっくりと入ってきたそれが一番奥で動きを止める。息をつきながらぎゅっと抱きしめ合う。頭を撫でられている。鎖骨を舐められる。首筋に口づけられる。全部佐久夜がこの人に望んでしたことなのだと分かっているから頭がおかしくなりそうだった。もうとっくにそうなっていたけど。
 不意に佐久夜の気配がした。巡が間違えるはずもない。扉の向こうに佐久夜がいる。人払いはしてあるから不用意に立ち寄ったわけでもなく、何かの意図があってそこにいる。
 鵺雲にはその気配に気付いてほしくないと思った。目を瞑ったまま気を引くために脚を鵺雲の腰に回して背中を撫で上げ首筋を吸う。慣れたような素振りをしているその人の身体が敏感に震えるのが可笑しかった。
「は、ん、佐久ちゃん、佐久ちゃんっ」
 扉一枚隔てた向こうで佐久夜が熱い息を吐いたのが、聞こえるはずもないのに分かっている。あいつが俺に欲情している。それを感じてどうしようもなく背筋が震える。
「あっ、や、佐久、っ……」
 絶対にこの目は開けてなるものかと、必要以上にぎゅっと目を瞑る。佐久夜に見立てたその人にすがりついて扉の向こうに本人の気配を感じながら達した。二人の腹の間にぬるい精液が貼り付く。呼吸が苦しい。涙でぼやける視界に少し拗ねたような表情を浮かべる鵺雲の姿が映る。
「さすがに寂しいな。僕のことも呼んでよ」
「やくも……さん」
「巡くん」
 柔らかい手つきで頬を撫でられ、口づけられる。舌が入り込んでくる。この人でも舌は熱いのだと、いらない発見をした。微かな水音が立つ。ぼんやりする頭が溶かされていく。巡から唇を離して、鵺雲は相変わらずおっとりと微笑みながら、扉の方に声を掛けた。
「佐久夜くんもおいで」

□ □ □

 巡と鵺雲が舌を絡めている。脱げかけた服があちこちに引っ掛かり淫靡な光景を作り出している。目が離せない。ずっと見たかったものであるような気もするし、とてつもない嫌悪を催すものであるような気もしている。どちらにせよ佐久夜は苦しいくらいに興奮していた。
 おいで、と甘く呼ばれる。何も考えられないまま二人の側に膝をつく。がちがちに勃ち上がった性器に気付かれたら恥ずかしいと一瞬思ったが、巡がそれを見て艶かしく笑うのでそれすら忘れた。
「僕はもう疲れちゃったから……二人がしているところを見せてよ」
 鵺雲は色っぽくシーツに倒れ込む。どうしてこんなことができるのだろう。
 巡の表情は読み取れない。
「巡……」
「佐久ちゃんさ、それ、苦しいでしょ」
 巡の手が服の上から佐久夜の性器をなぞり、それだけで身体が跳ねた。
「……俺は……」
「佐久ちゃん」
 巡の望みはなんだろうか。巡は何を考えているのだろうか。どうしたら巡は傷つかないのだろうか。
 もう全てが手遅れなのかもしれなかった。
「……抱かせてほしい。巡……」
「いいよ。佐久ちゃん」

 巡の中は十分に拡がっていて、だから簡単に入ってしまえた。何の準備も抵抗もなかった。ゆっくりと抜き差しを繰り返しながら、巡の様子を窺う。眉根を寄せて目を瞑って荒い呼吸をしている。動きを止める。
「……苦しいのなら、無理は……」
「平気だって! 続けろよ」
 巡は目を開けてキッと睨み付けてくる。従う他はないので頷いた。彼の腰に手を添えて揺さぶる。佐久夜の顔をじっと見上げていた巡はふと視線を落とす。
「……ふっ、ぁ、はは」
 苦しそうにしながらも巡が笑うので、その顔を見つめる。
「俺の、佐久ちゃんの、化身に……っ」
 巡は堪えきれないという風に肩を震わせる。視線を自らの腹に落として納得した。巡の性器が佐久夜の化身に擦り付けられるようにして揺れている。
「ふふ……あはは。なんか笑っちゃった」
 巡が笑うので佐久夜も面白いような気がして笑った。
 鵺雲が擦り寄ってきて、佐久夜の化身に舌を這わせる。
「……ああ、ごめんね。いいなって思って」
「いえ……」
 鵺雲の頬に巡の性器が擦り付けられている。それを見た瞬間かっと体温が上がって腹の底が一層熱くなった。中に入られている巡も感じ取ったのか鼻にかかった声をあげる。
「巡くんの化身も舐めていいかな」
「……はい、どーぞ」
「ありがとう」
 心底嬉しそうに高貴なその人は這いつくばる姿勢になって、仰向けに転がる巡の手のひらに舌を這わせた。白い背中が目に眩しい。身体が熱い。
 片腕で首に抱き付かれた。顔の向きを戻す。至近距離で巡と目が合う。彼の瞳には縋るような色が浮かんでいる。こんなにはっきりと彼の感情が表れているのは一体いつ振りだろうか?
「……ね、佐久ちゃん、ちゅーして」
 巡は子供のおねだりみたいな口調で言う。胸が苦しくなった。子供がするような押し付けるだけのキスをする。巡は鼻から媚びた小さな声を出す。
「ねえ、次、僕もしてほしいな」
 代わる代わるに唇も身体も性器もどこもかしこも押し付け擦り付け合って溶けていく。もはや誰のものか分からないくらいに絡み合う。何を考えているのかも分からなくなって、だからそれが一番良い方法だったのだろう。
20211226


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