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モブ女子生徒との絡み

 頼城が贈り物を貰ってくるのはけして珍しいことではなかった。手作りの菓子、メッセージカード、花束、ぬいぐるみ、果ては鉢の胡蝶蘭まで。今回は比較的小さな包みだった。とりあえずは無害そうなので、斎樹は安堵する。頼城が運んでくる贈り物は稀に悪意や行き過ぎた好意を詰め込まれていた。彼は贈り物は重ければ重いほど良いのだと信じているようで、ぬいぐるみの腹に詰められた盗聴器の不自然な重さすら歓迎していた。鋭いくせに妙に愚かしいところがあった。
 訓練が始まる前に食べようと頼城に呼ばれ三人で集まっている。可愛らしいラッピングの中身は小箱に入れられた手作りらしいクッキーだ。微かに蜂蜜の匂いがしている。見た目は申し分なく、菓子作りの上級者なのではないかと思わせる。
「中身の確認はしたんだろうな?」
「知らない相手ではない。生徒会の──」
 頼城の告げた名前は斎樹も一方的に知っているものだった。生徒会に入るだけはあって真面目で誠実に見える三年の女子生徒で、それなら安心かもしれないな、と思う。
「三人でと頂いたんだ。柊は無理をしなくてもいいが」
「ん……イヤじゃ、ない。大丈夫」
 勘の良い後輩のお墨付きまで得てしまった。きっと確実に安全で、そこには毒も悪意も含まれていないのだろう。純粋な好意だけが丁寧に詰め込まれている。
「では……」
「ああ、いや、俺はいい」
 考えるよりも先に断っていた。危険は感じられず、勧められたもので、見た目にも難はなく、訓練前の補給としても相応しいだろう。論理的に拒む理由など何ひとつ存在していない。それなのに理屈以外の何かがそれを拒否していて、非論理的と分かっているのに斎樹はどうしてもそれに手を伸ばせずにいる。
 自らの意味不明な行動に内心動揺する斎樹に寄り添うように、霧谷は柔らかく首を振る。
「俺も……それは、紫暮が食べるべきだ」
「そうだろうか」
 頼城は首を傾げるが、特に食い下がることもなく蓋を閉じた。デコレーションされた小箱の、紫色のハートマークがやけに目を引いた。

 蜂蜜の匂いがする。
 頼城と向き合って何か話しているのはこの間クッキーを贈った彼女だろう。この距離でも分かるくらいに瞳をきらきらさせて頬を染めて僅かに背伸びをして、疎い斎樹にもおおよそ何を意味しているかくらいは分かる。二人を見かけて咄嗟に身を隠してしまって、動くことができずにいる。何を話しているのかは聞き取れないが、頼城の笑う声だけ時折届く。
 あのクッキーを貰っておけば良かったな、とふと思った。あれに込められた気持ちの一欠片でも吸収しておいたなら、今の痛みだってきっとそのせいにできたに違いない。
20210717


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