Proposal




 「念のためにと通信機に録音されていた音声と別の物を聴き比べたりもしたんですよ。会議の際後で確認できるようにとこっそり内容をレコーダーに記録しておいて良かったです」


 態度を取り繕う必要がなくなったプルヌスは、テーブルの向かいに座ったアマリーをじとりと睨みつけた。パーキンを演じていたときとはまったく別人の雰囲気である。
 一方、睨まれているアマリーは涼しい顔でトランプをシャッフルしている。






 プルヌスが勢いまかせに投げたナイフはあっさりと防がれた。
 そもそも距離も何も計算せずに投げたナイフがしっかりと刺さるはずもなく、先の襲撃の際使用したスペツナズ・ナイフを所持していなかった彼女のミスとしか言いようがないのであるが。

 しかしそれだけで彼女が折れるわけでもない。だてに今までカジノ周辺を騒がせ、人柄につけ込んでKeeper代表を不意打ったわけではないのだ。
 投げるのに失敗したのなら本来の用途でナイフを使うまでと態勢を立て直し、足元に力を込め走り出そうとした。

 が、走り出す前にパンッと乾いた音が鳴り響く。

 煙を立ち昇らせた拳銃を構えたアマリーと弾痕がついた自分の近くの壁を見て何が起きたかを理解したプルヌスは舌打ちをした。
 そんな彼女を見てアマリーはにこりと綺麗に微笑む。


 「平和にトランプでもしませんかって言ったじゃないですか。僕、荒事は苦手なんですよ」

 「どのクチで言ってんのよアンタ……」

 「ちなみに今の会話も含めて全部記録中です。たとえ僕がこれから貴方に殺されて証拠になりそうなものを全て潰されたとしても、従業員の方に言伝してあるんですよ。清掃なりでこの部屋を訪れたときに僕がいなければあるところに連絡して伝えてほしいことがあると」



 「『あるところ』も、『伝えてほしいという内容』も目星がつくでしょう?それとも僕に手をかけた後でホテルの従業員全員を始末するんですか?このホテル、結構人がいますけど」








 どう足掻いても自分のしたことが露呈するのに変わりはないということで逃げ道を失ったプルヌスはアマリーに促されるまま部屋に置いてあったテーブルに彼と向かい合わせに座った。
 むっすりとした顔で何か意趣返しはできないかと考える彼女の前にトランプの束が差し出される。

 「プルヌスさんのほうでもカードを切ってもらえますか?」

 「躊躇なく発砲するくせに変なトコロで律儀で平等ね……」

 面倒そうな顔をしながらもプルヌスは大人しくトランプを切り始めた。
 トランプを切りながらも目の前に座る相手に警戒と視線を投げかける。なかなか切り出そうとしない相手に焦れて彼女から口を開く。

 「で?アンタ何考えてるの。電話で言ってた通り話をするためにジブンをここに呼んだんでしょ」

 「何だと思います?」

 「変に焦らすんじゃないわよぶっ刺すわよ」

 「おや怖い」

 アマリーは剣呑な雰囲気を隠そうとしないプルヌスを軽くいなしているが、笑っているのは口元だけで目は真剣である。彼は「提案があるんです」と言って目を細めた。


 「お互いに欲しいものを賭けて、ゲームをしませんか?」


 ブラックジャックにしましょうか、笑顔で言うアマリーにプルヌスは渋い顔で「何考えてるの」と先ほどと同じ言葉を繰り返した。

 「やらないんですか?貴方が勝てば何でも差し上げますよ」

 「……アンタの立場や権力とかでもいいのかしら?」

 「ええどうぞ。親もそちらでいいですよ。ただし僕が勝ったらこっちの欲しいものをいただきます」


 長く安定して続いてきたUmpireを動かすだけの権力があれば望むことはほとんどできるだろう。自分から差し出せるものなどたかが知れているはずであるし、イカサマされて負けても失うものなどない。ゲームに勝つだけで諦めかけたものを得ることができるのなら絶好のチャンスだ。
 もともと目の前にいる相手に成り代わるために奔走してあちらこちらに不安の種をばら撒き、疑心暗鬼と隙を窺っていた身としては魅力的な提案だった。



 「……いいわ、やりましょう」


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