【Caution】

 最近、カジノ近辺にて不審な人物の目撃情報が寄せられました。
 以下の特徴に該当する人物をお見かけの際は、Umpireへご連絡ください。


  ………………


  なお、BAR関係者を含むWar Game関係者は自身の安全にも注意されますよう。





Incidentally




 「フフッ」

 Umpireが所有するカジノ内部の、あまり人が通らない通路。


 その人物は注意書きが記された張り紙の前に立っていた。
 張り紙に書いてある内容は最近カジノの近くで目撃されたという【不審者】の数少ない情報と、Umpireへの情報提供を求めるというもの。最後にWar Game関係者への注意を促す文面で締めくくられていた。

 (いいカンジじゃない?それなりにジブンの思惑通り)

 長く伸びる髪飾りが特徴的なその人物は、張り紙に記された内容を見て笑みを浮かべているようだ。
 全体的に少々すらりとしており肉付きは薄いが、女性のようである。

 (このノリで連中の注意を分散して、なおかつアレから引き離していけば…)





 エレムルスはその日行われていたWar Gameの様子を見にカジノへ来ていた。


 Tracerのリーダーとして試合の経過を確認しておきたい。けれどもフィールドへ直接赴いては試合に出る者の集中力を欠いてしまうかもしれない。
 だからこそ彼女はわざわざカジノへ足を運んで、賭け事をする観客たちに混じりながら試合を見守る。

 カジノを運営するあの双子や、対抗団体の代表を務める青年に頼ればもっと快適な環境で試合を見ることができるだろう。
 しかしそのような「コネ」を気軽に頼ることを彼女はあまり良しとしなかった。いざというときに頼ってこそのコネ、というわけだろうか。


 それはさておき、試合を見終えた彼女はカジノ内の人気のない通路を歩いていた。

 試合中は観客がそちらに集中しているからいいものの、Tracerリーダーということもありゲームの出場者として彼女はそれなりに顔を知られている。
 なので試合が終わった後は騒がれないようすぐさま人気のない場所へと移動するのだ。

 (今日の試合も、よく頑張っていたな。後で労いがてら差し入れでも……)


 「フフッ」


 試合に出ていた部下をどう労うかを考えながら歩いていた彼女の耳に、小さな笑い声が引っかかった。女の声だ。
 大声ではないが、思わず出てしまったという感じの声である。そしてその声は少し先の角を曲がったところから聞こえてきた。

 (誰かいるのか?)

 普段はあまり些細なことに気を止めない(大雑把とも言う)エレムルスだが、偶然耳に入った笑い声には引っかかる何かがあったらしい。足音を殺しつつ少し歩くペースを上げて通路の角を曲がった。




 「げっ」

 かすかな気配を感じてちらりと振り返ると、角を曲がってきたらしい鋭い瞳と藍色の髪がちらついた。

 (Tracerのリーダー!)

 「おい、そこの……」
 「サヨナラっ!」

 エレムルスが声をかけるのにも構わず、張り紙を見ていた彼女は身を翻して駆けだした。長く伸びる髪飾りがシャラッと音を立てて宙を舞う。
 意外と足が速いようで、すぐにその後ろ姿は小さく、そして見えなくなってしまった。


 「……何だ?」

 突然走り去ってしまった人物にエレムルスはきょとんとしながら目をしばたかせた。
 そして、人物が見ていたと思しき張り紙に目を止める。


 「不審な人物……む?」


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