Penalty
「――ちえ、メンドくさっ」
医療班・治療組が出来るまでの流れが説明されていたその日、その人物はヘッドホンを耳に当て、どこかで座りながら盗聴器で傍受した会場の音声を聴いていました。
「ヘタレっぽいからまだ様子見貫くと思ったのに……もおぉなんなのジブンが相変わらず爪が甘いって言うの?」
その人物はヘッドホンから聞こえてくる内容に足をじたばたと動かして不満げにしています。が、すぐに立ち上がりました。手に持っている袋からジャリ、と音がします。
「まあいいや。種は蒔いたし、連中が噂でバタバタしてる隙にシューカクあったし」
持っている袋に手を入れて、中身をひとつ取り出しました。
「ジブンはあんまりこれに興味ないんだけどね」
袋の中身は、文字らしきものが刻まれた欠片でした。
*
それから数日後。
「まずありえないでしょうそんなこと」
「でも違和感があるんだって。とりあえず調べて」
ここはUmpireの総帥たちの執務室。
部屋の中にはUmpire総帥のアマリーと、Keeper代表のグラジオラスの二人だけです。アマリーの妹とその秘書が外出中のようで、最初はアマリーしかいなかったところにグラジオラスが駆け込んできたのでした。
いつも飄々とした態度のグラジオラスですが、今は少し焦っているようです。
なにしろ彼は執務室に駆け込むや否や「Umpireって欠片の数の管理もしてるよな!?」とアマリーに詰め寄っていったのですから。
珍しく慌てた様子のグラジオラスを、珍しくアマリーが落ち着くように取りなすと彼は「保管してる欠片の数が少なくなっている気がする」と言うのです。欠片の持ち数の管理はUmpireが行っていますが、欠片自体の管理はそれぞれの代表とリーダーが任されているようです。
そして、そこから先程の会話になりました。珍しく仲の険悪な二人が普通に会話をしています。
「とりあえず今Keeper側の欠片がいくつあるかを改めて教えて。200いくつ…300近かったんじゃなかったかな」
「keeper側の欠片は今は286個、Tracer側は207個です。数が更新されるたびに覚え直しているので間違いありません」
「………。…違う」
「は?」
「一応忙しくても定期的に欠片の確認はするようにしてるんだけど……こないだまで噂が流れてた間は正直色んなこと思い出して揺れてて、それを出さないようにするのと、うっかり変なこと口走らないようにするのとでちょっと余裕なくなりかけてて……」
「ラ……グラジオラスさん」
「それで、噂が流れてる間はしばらく欠片も見れなくてさぁ。で、今日ここに来る前に久しぶりに確認したら、何か少ないなって目に見えて分かるくらい減ってて……実際数えてみたら」
「ざっと、100くらいは減ってた」
現在の欠片総数
Keeper側179個、Tracer側207個で、計386個
…行方不明、107個