彼女の手が、指が青年の首にじりじりと喰い込んでゆきます。
青年は震える手で自分の首にまとわりついた彼女の指を一本ずつはがしていきました。
彼女の手も、震えていました。指をはがしたあとには、痣がついていました。
『すまない』
俯いて、声を震わせながら彼女は言いました。
『……分かっているのに、分かっているのに色々飲み込むことができないんだ。……父が試合での怪我で死んでも、他の連中と同じようにお前もルールに則って戦ったことに変わりはないのに』
青年は非難もせず、手を上げることもせず、ぼんやりと彼女の言葉を聞いています。
彼女は今にも泣きながら崩れ落ちてしまいそうでした。
『本当に、……本当にすまない』
『お前は、ルールに従っただけで悪くないだろうに』
そんな彼女の言葉に、青年は痣のついた首筋をさすりながら呟きます。
『俺が悪くないなら君だって悪くない』
君にとってお父さんの存在はそれだけ大きかったってことなんだもの、そう青年は続けました。分かるよなんて知った口は利けないけど、想像はできるよと。
怒りもせず、泣きもせず、青年は淡々と言葉を続けます。
『医者が言ってたよ、応急処置さえしてればあの人が助かる確率はぐんと跳ね上がったって。そういう人は今までにもたくさんいたんじゃないかな』
『このゲームに携わる人たちはみんな戦って競争するばかりであとは丸投げじゃないかって、こっちに連れて来られたときからずっと思ってたんだ』
彼女は顔を上げました。
『君みたいに悲しむ人だって、きっとたくさんいたはずだよ』
物陰から二つの影がそれを見ていました。