何だかんだで続くよ昔の話。でもここで一区切りかも。
Jのターン!ドロー!


前の話→//







だって、羨ましかったんだ。







朝早く起きて、最低限のやることを済ませたら買い出しという名目で親が起きる前にそそくさと家を出る。これが彼の日課だった。

早起きはなんとやらではなく、親となるべく顔を合わせないようにするための行動である。
鉢合わせなどしようものならあれをしろこれをしろと命令するだけされて断れば苦情をぶつけられる。運悪く親の機嫌が悪ければ制裁も飛んでくる。なので言われた通りにするのだが、それで別段褒められることはない。できることをするように言ったのだからできて当たり前、そんな感じだ。
前は褒めてもらえていたはずなのにいつから、と考えることにはもう飽きていた。

自分の今の過ごし方は前テレビか何かでちらりと見たロボットに似ている。ジェロウド=クレスはそう思った。


僕はあんたたちの子どもだけどロボットじゃない、そう言いたくてたまらなかったけど反撃が怖くて口をつぐんでいた。





そんな日々を繰り返していたとき、声をかけられたのだ。

その二人は両親の世話に傾倒しすぎて同年代の子どもと遊ぶことも学校に行くこともできなかった彼の初めての友達となる。






二人と遊ぶようになって、名前が少し長いからとあだ名をつけてもらった。どちらかの家に招待されるようにもなった。
ロンドの祖父?(彼は「師父」と呼んでいたが)もアルネオの母も自分のところの子どもの友達ということでJに良くしてくれた。嬉しかったし、くすぐったかった。羨ましくも思った。

家のことを聞かれてもはぐらかした。
二人が羨ましくて、眩しくて、なんだか自分の家のことは言いにくかった。今思えば早めに言っておいたほうが良かったのかもしれないが。
両親にも友達のことは言いたくなかった。言ったら邪魔をされるんじゃないかと不安だった。







最初に声をかけてきたのはロンドだが、一緒に遊ぶ時間はまだ学校に通っていないアルネオとのほうが多かった。

アルネオもたまに病院に通っているようで遊べないときもあったが、病院に行かなきゃならないなら仕方ないなと素直に納得できた。せいぜい何か病気なのかな、とちょっと首を傾げる程度だ。
悲しい顔もしないし涙も流さない、目を開けていても起きているのかたまに分からなくなる動きのない表情だけど、申し訳なさと寂しさをたっぷり含んだ声で「ごめんなさい」としゅんとされればむくれる気も湧かない。こちらのほうが年上だからというのもあるのかもしれないが。



アルネオの父親のことを知ったのは昼間から彼の家で遊ばせてもらっていたときだった。
その家は楽器屋さんで、おばさんが店を切り盛りしているようなので平日の昼間にお邪魔しているときは基本Jとアルネオだけのときが多い。その日も彼らだけだった。
写真でしか見たことないけどアルネオと似てるなあと思いながらJは居間に飾られた家族写真を見ていた。写真の中の両親と一人息子は楽しそうだ。きっと仲のいい家族なんだろう。


(いいなあ。)


思っていただけのつもりだったのだが、気づかず声に出してしまっていたようだ。

「なにが、いいなあ、なんですか?」

目の前にいる年下の子がきょとんと首を傾げた。何の含みもなく、ただ単純に不思議そうに。
このとき適当にはぐらかしていれば違うルートに入ることができたかもしれない。

だが、『適当にはぐらかす』という選択肢をその歳で選ぶのにはおそらく無理があったし彼の頭にそんな選択肢は出てこなかった。結果として彼は年下の友達からその父親についてのたどたどしい話を聞くことになった。
最初は何のとりとめもないことから始まって、堰を切ったようにアルネオは次々と情報を吐き出した。


もともと家の楽器屋で店長をしていた。音楽が好きで色んなことを教えてくれた。教えてくれたことを真似してみたらすごいと言ってくれた。隣の家のロンドたちも一緒に色んなところへ遊びに連れていってもらった。大好きだった。自分を庇って潰れて死んでしまった。もっと一緒にいたかった。自分のせいでもう会えない。自分が悪いのだ。


表情は鉄の仮面を被ったように変わらなかったが、声の震えで感情は分かりやすかった。
父親が大好きで尊敬していたと、父親の死は自分のせいだと、尊敬している父の死の原因である自分が嫌いだと。そんな思いがありありと伝わってきた。

それを聞いてなおジェロウドは思った。



(いいなあ。)




大好きで尊敬できて色んなことを教えてくれて褒めてくれる親。
片親がいなくなったということ。
親を尊敬し、その親の死に深く傷つけること。

彼には全部羨ましかった。






「なあアルネオ、お前自分がきらいだろ」

「僕もこんな僕がいやなんだ」

「うん、そうおそろい」



「だからさ、せっかくだしちょっと取りかえっこしてみないか」



「平気だって。そんなむずかしいことじゃないよ」

「な、面白そうだろ。ロンドだってきっとびっくりするぞ」





(自分と僕と、取りかえっこしーましょ。)

(いつまでにしよう。ずっとでもいいよ。)


2012/09/26



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