「お前の書く文章は、いつも素直だな」
 私の机からルーズリーフを取り上げて、柳くんはひっそりと笑う。誤字でも修正してやろうか、と彼は筆箱から赤のボールペンを取り出した。柳くんは部員ではないけれど、活動している教室にふらりと現れては校正を手伝ってくれたり雑談をしていったりするのだ。
 彼の気まぐれな訪問をひそかに楽しみにしている事を、私は彼に伝えられないままでいる。

 幼い頃から、本を読むのが好きだった。年を重ねていくうちに読むだけでは物足りなくなって、自分で文章を書きはじめた。後輩が入って来なかったために最後の部員になってしまったけれど、文芸部に入ったことを後悔はしていない。

 ぼんやりと物思いにふけっていると、目の前にルーズリーフが差し出された。
「誤字や脱字は特に見当たらなかった」
「そっか。ありがとう」
「……これが最後か」
 寂しくなるなとつぶやいて、柳くんは視線を窓の外に投げた。つられてみた空は、見事な橙色に染まっている。
 柳くんの横顔を盗み見ようとして、思わず息を呑むほどに真剣な瞳とぶつかった。彼の唇が、うすく開かれる。
「俺は、お前の書く文章が好きだ」
「……うん」
「お前の素直な心根が、好きだ」
 驚いて、呼吸が止まりそうになった。口を開いてどうにかしぼりだした声が、ひどくかすれる。
「私もね、ずっと言いたかったんだ」
「ああ」
「中一のときだっけ。文章が素直だ、なんて初めて言われて、すごく嬉しかった」
 私は柳くんの手を取った。私の手は小刻みに震えていて、そして彼の手はひどく冷たい。
「私も、柳くんが好きです」
 柳くんは、まるで壊れものを扱うように私を抱き寄せる。心臓の音がうるさくて、泣きそうになった。


壊れそうな心臓ふたつ


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