片付けの済んだ部屋は思いのほか広々としていて、明るかった。必要なものは全て段ボールに詰めて、置いていこうと決めたもの、例えば揃いのマグカップや彼がよく読んだ本は、ビニールの紐でひとまとめにしてある。
 処分するものの山のてっぺんには、ガラスの写真立てを置いた。写真が嫌いだった彼が唯一撮らせてくれたツーショットは、もう3年も前のものだ。一枚の紙の中に収まった私と彼はいまよりずっと若くて、怖いものなんてなにもないような顔で笑っている。これから先に起こる別れを彼らは知らないのだ。そう思うと、無性にかなしくなった。
「もう終わったのか」
 自分の部屋を片付けていた彼が、ドアを開けて顔を覗かせる。
「早いんだな」
「うん。……ほとんどの物は置いていくし」
「そうか」
 会話が途切れる。沈黙はこの明るい部屋に妙に馴染んでいて、泣きたくなった。
「好きだったよ」
「……ああ」
「でも、終わりにしなきゃね」
「名前」
 彼はこちらへやってくると、私の背に腕を回して引き寄せた。彼の胸板に鼻を思い切りぶつける。
「今まで、ありがとう」
 彼の着ているワイシャツの白が滲む。今になって泣いてしまう私は、やはり弱いのだろう。
 ここで別れても、私はきっと彼に似た人を探してしまうに違いない。彼のシャツにしがみついたまま、私は子供のように声を上げて泣いた。


ライオン


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