拝啓 観月はじめさま
お元気ですか。私は元気です。
先日は、素敵な写真をありがとうございました。あの中に写っていた東京の桜は、もう散ってしまいましたか。こちらでは、まだ蕾が綻んでもいません。今年はどうやら、春が来るのがうんと遅いようです。
今年は五月の連休だけでなく、夏も帰れないのでしょう?でしたらまた、冬に会いましょう。ずいぶん先の約束になってしまうけれど、きっと。
テニスの練習もお勉強も大変だと思うけれど、頑張ってください。でも、くれぐれも体には気をつけて。怪我をしたり病気になったりしてしまっては、おじさんもおばさんも悲しみます。
また、お手紙を送ります。お元気で。
敬具
名字名前
淡い桃色の便箋に綴られた丸い文字を指先でなぞると、遠いふるさとにいる彼女の顔が思い出される。電話やメールを好まない彼女は、こうして度々、手紙を寄越す。 黒のボールペンで綴られる文字が語るのは彼女の近況であったり、遠くへ残してきた家族の様子であったりとさまざまだ。
写真立ての中にいる彼女の姿はもう二年も前のものだ。そうだ、今度は彼女の写真を送ってもらおう。満開になった桜の木の下の。
便箋を一枚、机に広げた。
春一番