細くてぬるい雨が降っている。私は冷たくなってしまった子犬の亡骸が濡れないようにしっかりと腕に抱きながら、しゃがみこんで穴を掘る同級生の姿をずっと見ていた。
「花、探して来てくれる?」
「うん」
 手を泥まみれにした長太郎くんが言った。墓はおおかた完成したようだ。見れば、ずいぶんと大きな穴である。これなら墓の主も安心して眠れるだろう。
 幸いなことにこの公園は野草の宝庫だ。できるだけたくさん摘んでこようと私は歩き出した。
 まだ小学生だった頃に同じようなことをした。あの日もたしかこんな雨だった。あの時から大柄だった彼は体を小さくするように背中を丸めて、手を泥だらけにしながら、後ろに立っている私に気づきもしないで穴を掘っていた。どうしたの、と背中に声をかけると、彼はゆっくり振り返って、猫のお墓だよと言った。ちょうど彼の体で陰になっていた場所にいた子猫の死体を指差して、今にも泣き出しそうな顔で。
 ちょうど咲いていた紫陽花の花を二、三本手折って、長太郎くんのもとに戻る。腕の中の子犬を彼に手渡すと、彼はそれをそっと穴の中へ置いた。ゆっくりと土をかぶせる彼の手は、小刻みに震えていた。私はまるで荘厳な儀式でも見ているような気分になった。
「名前ちゃん、花、貸して」
「……私がやるよ」
 手を差し出した長太郎くんの隣にしゃがみこんで、紫陽花を手向ける。雨に打たれたこの花は、やがてゆるやかに朽ちるのだろう。なぜだかひどく、心ぼそい。
 帰ろうか、と長太郎くんが立ち上がった。私もそれに倣う。
「制服、汚れちゃったね」
「……そうだね」
「ねえ、名前ちゃん……寒いね」
「……うん」
 長太郎くんがふにゃりと笑う。その顔がひどく寂しげに見えて、私はいたたまれないような気持ちになった。
 雨が強くなってきた。長太郎くんの泥だらけになった手に触れると、そっと握り返してくれる。心ぼそいのはきっと、彼も同じなのだ。


ぬるい雨


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -