※社会人・特殊設定注意


 家庭のある人を、愛してしまった。
 彼を知って清く正しくあることをやめたわたしは、代わりにつま先へさまざまな色を乗せることを覚えた。あるときは赤、またあるときは黄色、その次は緑。薄明かりに浮かび上がる極彩色は、白いシーツによく映える。手の方の爪は彼に料理を作るためにいつも短く切りそろえてあるから、わたしの手足は並べたらちぐはぐだ。いつの事だったか、お前の手と足はまるで別人だなと彼はわらって、わたしの足の甲に口づけた。
 彼はわたしと戯れるとき、左手の薬指に嵌めた指輪を絶対に外さない。光を反射する鈍い銀色をわたしはいつも疎ましく思うのだけれど、そんな事は絶対に言ってやらない。言ってしまったら、わたしは自分の惨めさを認めざるを得なくなるからだ。わたしは胸の中に、毛を逆立てた猫のような自尊心を持っている。


「塗ってやろうか」
 彼はそう言ってわたしの手から小瓶を取り上げると、片膝を立てて座った。足首をつかむ彼の力は強い。上目づかいの視線に心臓が跳ねた。
「俺様の目と同じ色を選ぶとはな」
 殊勝じゃねえか、と彼の唇が弧を描く。瓶のふたがはずされると、独特の匂いが鼻を掠めた。
「別に、そんなつもりじゃ」
「動くな、はみ出る」
 透き通るアイスブルーが、器用につま先へ乗せられていく。なんて不毛な、そしてなんていとおしい光景だろう。
「景吾さん」
「あん?」
「わたし、景吾さんのこと、愛してますよ」
「……ああ」
 彼は立ち上がると、わたしの頭をくしゃりと撫でた。彼と終わってしまうそのときまで、わたしはつま先を彩り続けるだろう。落とした視線の先にある極彩色が、目に痛かった。



飾り立てる極彩色




それでもわたしはきみをすき様に提出


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