鬼哭 | ナノ
『紅、いつまで寝ているつもりだ?』
あれ、常磐?何であんたがここにいるのよ?
だって常磐はあのとき……。
『あのとき?どうかしたか?俺はちゃんとここにいるだろう?』
そう……そう、だよね。ちゃんとここにいるよね。
『紅チャンは相変わらず寝汚いなー』
ちょっと!あんたにだけはそんなこと言われたくないわよっ!
……って、アレ?
ねえ、東雲(しののめ)とは随分昔に別れたはずじゃ……?
『何を言っちゃってんの!お前、起きたまま寝言が言えたっけー?』
『随分と器用になったもんだな……』
って、常磐まで納得しない!てか、そこで盛大に溜息つくなぁっ!
ちゃんと起きてるってば!
『全く、いつまで経ってもお前は変わらないな』
そんなこと言われたって、すぐに変われる訳じゃない。
ねえ、東雲っ?
『そうそ、若い内から固いことばっか言ってると、その頭がハゲちゃうぞー』
『……全く、お前らと話していると疲れるだけだな』
何を今更。私たちは昔からこうだったじゃないの。
れ?昔……?
『ん?どうかしたんか?』
や、今何か引っかかったような……。
『どうせロクでもないことだろう?お前の考えることはいつもそうだ』
失礼な。コレだって私はちゃんと考えてるんだからねっ!
え〜と、何だったかな……。
『思い出せないってことはどうでもいいことじゃね?』
『紅、あまり考えると知恵熱を出すぞ?』
ちょっ、私はそこまでバカじゃないってば!
『紅がバカなのは今に始まった事じゃないしなー、ニシシ』
酷ッ!あんたたち、ホントに私を愛してるのっ?
愛が感じられないわよ、愛がっ!
─― 誰が誰を愛してるって? ――
はぁっ?今とてつもなく酷いこと言わなかった?!
誰よそんなこと言ったのっ!
正義の鉄拳を喰らわせてあげるから、前に出なさい前にっ!
『俺は何も言ってないぞ?』
『オレも知らん』
おっかしいなー。確かに聞こえた気がするんだけど。
『空耳じゃないのか?』
『そうそう、まだ寝ぼけてんだよ』
そうかなぁ?
でも、確かに聞こえたんだって。
─― テメェはいつまでそこにいるつもりだ? ――
ほら、また。今度は聞こえたでしょ?
『いや、何も聞こえないぞ』
『仕方ないなー。紅チャンもう一度寝る?あ、今度はオレとね。そしたら変なこと言わなくなるかもしんないし』
これ以上寝てたらマジであいつに殺されるわよっ!
そんなの冗談じゃないんだからっ。
『あいつ?あいつとは誰だ?』
えーと……アレ?誰だっけ?
『やっぱり寝るのが一番ってな!』
って、東雲!私を押し倒すんじゃないっ!っちょ、どこ触ってんのよ!
あんたには私じゃなくて蘇芳ッ……。
そう、だ。
東雲、あんた蘇芳と一緒にいたはずだよね?
何でここにいるのよ?
『えー、それってば何の事ー?』
それに常磐も。
常磐はあのとき確かに背中を斬られて、私に力を……。
『紅。何も考えるな。ここにいればいつまでも俺たちといられるんだぞ?』
『そうそ、昔みたいに楽しくしよーって』
東雲ならそう言うけど、常磐ならそうは言わないよ。
『うわっ、紅チャンてば酷ッ』
常磐なら、此処で立ち止まるよりも私に前に進めって言う。
……私のいる場所は此処じゃない。
『紅……』
ここは居心地が良すぎる。
けど、私がいる場所は此処じゃない。
……行かなきゃ。
─― やっと起きる気になったか ――
待たせて悪かったわね。今からそっちに戻るわ。
だから、もう少し待ってて。
─―蘇芳。
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