*n番煎じネタ。二人とも病んでます。 vanity 俺の家のベッドで、財前は足を広げて下半身で俺と繋がっている。 それだけなら、俺たちは恋人同士だと思うだろう。 けれど、おかしなことが1つ。 「あっ謙也さんっ、あッああ!」 「ここがええんやろ?」 財前は俺のことを「謙也さん」と呼ぶ。 そして、「謙也さん」だと思って抱かれている。 でも俺は「謙也さん」ではなく、一氏ユウジ。 財前が「謙也さんの声真似しながら犯してください」と言いだしたのは、もう随分前のことだった。 「あ、あ、や、ぁああっ」 「なぁ光、気持ちええて言うてみ」 「ひあ!あ、き、もちえ、えです…きもちええ…!」 普段、俺に対して生意気で減らず口しか言わない財前が、俺を謙也だと思うとこれほどまでに従順になる。 財前が謙也をどれほど好きかというのは、この光景を見ただけで充分すぎるほど理解できた。 でも、財前に好かれている謙也は白石と付き合っている。 結果、謙也を手に入れられなくなった財前は、声だけ謙也の俺にすがった。 手に入らないなら、質は落ちても似たようなものを手に入れるという気持ちはわからなくもない。 それは、純金が買えないから金メッキを買うようなものだから。 でも、純金や金メッキが「人」なら話は別だろう。 謙也が手に入らないから俺に抱かれるなんて、それは間違ってる思う。 「ふあ、あァ…、あ、あっあ!」 「めっちゃ締めつけとるで」 「っひ、あ!けん、やさん…やぁ…あ…」 財前はセックスしている間、滅多に目を開かない。 閉じた瞼の裏には、謙也が写っているのだろう。 その集中からか、何度も俺を「謙也さん」と呼び続ける。 財前にとって俺は「謙也さん」なのだから、それは当たり前のことで、それを承知で俺は財前を抱いているのだ。 なのに、なぜかひどく苛立ちを覚える自分がいる。 「あぁあ!いた、あ、ッいたい!」 「痛いのが、ええんやろ…っ」 「や、け、やさん…!やや、いた、い…!」 何度も何度も苛立ちを紛らわすように腰を打ち付け、財前に苦痛を与える。 それでも、財前はよがるように腰を動かす。 痛くても苦しくても、謙也に与えられていると思えば痛みさえも快楽に結びついているのだろう。 「け…やさ、ぁ、イク…あ、イク…ッ」 「ん、俺も…」 「あっああ、あっでちゃう…っああ!」 財前の性器から精液が飛び散って、俺は寸前で引き抜いて財前の腹にかけた。 お互い息を整えて、側にあったティッシュで財前の腹を拭いてやった。 余韻に浸るその表情はなんともいえない艶っぽさを秘めていた。 「痛くしてごめんな」 「はい…謙也さんになら、ええですわ」 その言葉を聞いて、心臓が跳ねた。 俺は「謙也さん」じゃない。 財前は、どこまで俺を謙也だと妄想しているのだ。 ここまでくるともう病的だ。 軽く恐怖すら覚える。 「光、おいで」 「ん…」 俺の腕の中にやってきた財前をそっと抱き締めてやれば、腕を絡めてきた。 病的、か。 そう確信していてもこいつを抱いている俺は一体なんなんだろう。 なぜ謙也の代わりでしかない俺が、ここまで尽くさなければならないのだろう。 答えは簡単。 少なからずとも、哀れなこいつを見ていると救いたいと思ってしまう自分がいるから。 いや、哀れだから放っておけなかったんだ。 こんな自分のことしか考えていないような、俺の気持ちなんか微塵も知らないような奴に同情するなんてバカだ。 それでも、俺は 「好きやで、光」 俺の声は決して届かない。 だったら、愛する人の声で本音を伝えよう。 それしか、俺が気持ちを伝える方法はないのだから。 「俺も、好きです」 だから、今だけは。 この愛しそうな笑顔は自分に向けられているのだと思っていたい。 ―――――― 初ユウ光です。 なのに暗い話でごめんなさいっ>< 戻 表紙 |