2010.8拍手:ちと蔵
*高校生設定



「あーもーあかん」

「白石、バテるの早か」

8月の猛暑日なのに、俺は千歳とストリートで打ち合っている。
どこにも行く予定がなかったからそうなったが、もっと室内のクーラーのきいたところでの遊びを提案すればよかったと後悔している。

「体力落ちたんじゃなかと?」

「千歳やって息切らしとるやん」

千歳は軽く笑いながら自販機へ向かい、何やら飲み物を2本買っていた。
そのうちの1本を俺に向かって投げた。
俺の好きなスポーツドリンクだ。

「おおきに」

頬にペットボトルをあてる。
ひんやりと冷たい感じがなつかしい。

「俺ら、ほんまにテニスバカやな」

「はは、困ったらテニスやけんね」

今頃、後輩たちは必死こいて練習しているころか。
夕日を背に遅くまで残って練習したのが最近のようだ。

「日も暮れてきたし、帰ろか」

「あ、蔵」

ベンチから立ち上がって動き出そうとしたら、千歳が呼び止めた。
振り向くと、気づけば唇を重ねていた。

「な、なんや」

笑顔を向けられて、逆に恥ずかしくなった。
人が来たらどうするつもりだったのだろう。

「高校、九州にせんでよかったばい」

「なんでや?」

「こうやって、また蔵とテニスできっと」

「それに、」と続けて、千歳は俺の頬を軽く触った。

「こうやって、蔵に触れる」

「…!」

そう言って、千歳は、にっこりと笑った。
確かに、離れていたらこうしてテニスをすることも、会うことも、滅多にできない。
俺は別に九州に行くなと止めていないが、千歳が高校を大阪市内にしたと聞いて、心底ほっとした。
俺は、自分でも気づかないほど、千歳に入れ込んでいるらしい。

「…なぁ、今から千歳ん家行ってええ?」

「俺も今、同じこと言おうと思ったばい」

身近な存在を改めて認識したこんな日は、千歳の家でたくさん愛し合うのだ。





――――――

千歳は九州行っちゃダメだと思う!
あんな可愛い子を置いて九州行ったらあかん!