(1/3)
ハート喘ぎ注意



白澤様の新薬の正体



「くふふふふ…」

机の上の薬包紙に粉末状の真っ赤な薬を広げると、つい笑みがこぼれた。
一ヶ月かかった、僕オリジナルの新薬がやっと完成したのだ。
もっと早くできるはずだったんだけど、いろいろ追加で良さげなもの入れたりしてたら思ったより時間がかかってしまった。でもこれはいい効果が期待できそうだ。

「どうしたんですか白澤様、気持ち悪い笑い方して」

「新薬、できたよ」

「本当ですか?ってか何の薬……うわっすげー色…」

桃タロー君は興味ありげに覗き込んできたが、えげつない色を見て固まった。
僕もまさかここまで真っ赤になってしまうとは思っていなかったからね、色はしょうがない。臭いがそこまで気になるほどじゃないだけマシだ。

「万年社畜の闇鬼神に飲ませてやろうと思って作ってやったんだけどね、目が冴えて疲れがブッ飛ぶ薬の素だよ。水に溶かして飲むタイプなんだ」

「……それ、合法ですよね?」

「アタリマエアルヨー、ゴーホーゴーホー」

「片言になってるじゃないですか…」

桃タロー君は怪しすぎるといわんばかりに顔をひきつらせている。
ベースは素敵な気分になれる仙薬だけど、そこから色々足してちゃんとした効果のあるものになっている、はずなんだよ。
僕、天才だからね。試してないけど理論上これであってるから間違いないでしょ。

「そんなわけで今からアイツ来るから」

「えっ」

「本当は君に飲ませて実験してやろうかと思ってたんだけどねえー」

「ゔ…っ」

流し目で見てやると、桃タロー君は罰が悪そうに目を反らした。
僕が最近鬼灯の前でしか女の子を口説いてないこと言ったの、まだ根に持ってるからね。
だけどそれよりアイツにこの間の恨みがある。嫌がる僕を無理やりエロ同人みたいに犯してくれた恨みが。
それに元々アイツの為に作った薬だし、それなら本人を実験台にしてやろうというのが僕の細やかな仕返しだ。

「まあいいや。そんなわけで材料の調達に行ってきてくれる?」

「どういうわけですか…ってこんなに!?」

お金と僕の絵付き材料メモをどっさり渡すと、桃タロー君は目をまん丸とさせた。
もしかしたら鬼灯のヤツ、薬が素晴らしすぎて僕に感謝でメロメロになってしまうかもしれないじゃない。だからしばらく帰って来られないようにしたいからこれくらいは頼んでおかないとね。急ぎじゃないやつまで書いておいたし遠いとこのもあるから相当時間がかかる量だ。

「今日中ねー」

「今日中っていつまでのこと言ってます?日付が変わる頃です?朝日が昇るまでです?」

「空気読んで帰ってきて!」

「空気!?…あ、あー…あーはいはい……」

察した桃タロー君はゲンナリした顔で籠を持つと、とぼとぼと玄関に向かった。

「じゃ、ヨロシクー」

「へーい…あ、鬼灯さん」

「こんにちは、桃太郎さん。届け物ですか」

「いえ、ちょっと材料調達です」

ちょうど入れ替わりで鬼灯がやってきた。
薬を薬包紙に包んでシッシッと手をやると、桃タロー君は眉間に皺を寄せて口を尖らせながらさっさと歩いていき、あっという間に見えなくなった。
鬼灯は哀れみのような目線で桃タロー君を見送ると、店に入ってきた。

「はぁい、いらっしゃい」

「何の用です?忙しい私を呼び出したということはそれ相応の用でしょうね」

「まあまあ、とりあえず部屋においでよ」

今からこれを飲ませることを考えると、にまにましてしまう。
薬と水の入ったコップとマドラーを持ち、堪えながらいつもの営業スマイルで部屋に案内すると、鬼灯は警戒しているのか立ったまま部屋の入り口で止まった。

「なに、入りなよ」

「部屋に何か仕掛けがあるわけではなさそうですね」

「そんなのないよぉ。どうして?」

「この間の仕返しをされるものとばかり思っていたので」

わかってて来たのかよ。ていうかちょっとは悪いことしたと思ってんのか。
あの後、お尻は痛いわお腹は下すわイキすぎたせいか一時的に勃起不全になるわで治すのに薬漬けの毎日だったんだぞ。
見てろよ、今からお前は実験体だ。僕の新薬の効果にひれ伏すがいい。この薬無しでは生きられなくなるぞ。

「仕返し?ああ、もういいよ治ったし。今日呼んだのはさ、」

じゃん!と薬包紙を手のひらに広げて薬を見せると、鬼灯は興味ありげに薬を見つめた。
赤い色が金魚草みたいだとでも思ったのだろう。というか金魚草使ってるからこの色になったんだけど。

「なんですか、これ。色がえげつないですが」

「新薬!お前の為に作ってやったんだぞ!感謝しろ!」

「私の為?なんの薬です?」

「目が冴えて疲れがブッ飛ぶ薬だよ」

「……烏天狗警察に通報しておきますね」

「大丈夫だって!お前の好きな金魚草使ってるし」

「金魚草を使えば怪しくないという考え方がどうかしてますよ」

そう言いながらも鬼灯は金魚草という単語に弱い。
その名を出すとあっさり部屋に入りベッドに座った。

「で、どういう魂胆なんですか」

「なんかね、なんかお前がなんかいつも疲れてるみたいだから、なんか作ろうと思ってね」

「なんかばっかり…益々怪しいですよ」

「大丈夫だって!飲んでみてよ、効果は保証するから」

薬をコップに入れて水に溶かすと、ざわめくトルコ石の金魚草のような濃い赤紫色に変化した。
マドラーでだまが消えるまで混ぜしっかり溶かすと、今度は青紫に変化した。
自分で作っといてなんだけど、ね●ねるねるねじゃあるまいしここまで鮮やかに色が変わる薬もそうないな。本当に大丈夫だろうな。

「……はあ…まあ、仕方ありませんね。金魚草の効果は気になりますし、今回だけですよ。保証するというからにはちゃんと臨床試験は済んでいるのでしょうし」

「………ん?」

「ん?じゃねえだろ。臨床試験ですよ。効果があるか試したのでしょう。当然やってますよね」

そんなものやってるわけないだろ。お前で試そうとしてたんだから。
僕は斜め上を向いてとぼけた。が、鬼灯は立ち上がって僕の胸ぐらを掴んで睨みをきかせた。

「まさかとは思いますが私で試そうとしてましたか」

「ん〜?ん、ん〜?」

「この白豚が!まずお前が試せ!」

「いやだね!僕がどうかなったらそれを治す薬が作れなくなるでしょ!」

「どうかなる前提なのがおかしいだろうが!」

しまった、僕の嘘つきスキルが低いせいでバレてしまった。コイツに睨まれるとつい嘘が吐けなくなってしまう。
まあ、バレてしまったものは仕方ない。こうなったら強硬手段だ。

「わかった。じゃあまず僕が試すよ」

「ええ、そうして下さい」

僕はコップに口をつけると少し口に含みサイドテーブルに置いた。
ヤバイ、なんだこれむちゃくちゃ苦い。漢方薬は苦いものだけど、これは異常な苦さだぞ。
口に広がる苦味を堪え飲んだフリをすると、鬼灯はまじまじと僕の顔を見つめてた。

「どうです?なにか変化は……んッ!?」

口を開いた瞬間、鬼灯の口にかぶりつき薬を流し込む。
ゴクリ、喉が鳴った。
ヨッシャー!飲ませたぞ!ざまあみろ!
と喜んでいたら思いっきり左の頬をぶん殴られた。

「い゙だーッ!」

「やはり反芻するみたいですねさすが偶蹄類」

「反芻じゃないったら!てか白衣で拭わないで汚れる!」

鬼灯はベッドに倒れ込んだ僕の白衣の端に唾を吐いて青紫色の液体が染み付いた。
あーあ、洗っても落ちないかもな。
しかし口の中から出てきた液体にしてはすごい色だ。合成着色料使いまくった米国あたりのお菓子のようだ。

「……口の中が最悪に苦いです」

「でっ、でもとりあえず大丈夫そうでしょ」

「すぐには異常はないようですね」

「だから大丈夫だって言ってるじゃないか」

僕はプロの薬剤師だぞ。薬の調合に関しては腕はいいと評判なんだ。
この薬だってちゃんと副作用とか考えて調合してあるし。僕、失敗しませんから。

「おや」

「どったの?……あ、あれ?」

鬼灯が股間を指差すから何かと思って目線をやると、見事なまでにテントを張っていた。
嘘だろと思い僕は目をパチパチさせて二度見したが、やはりそこはとても膨らんでいる。
おかしい。疲れはとれてもここが元気になる効果は特に無いはずだぞ。

「貴方、薬になんの原材料使ったんです?」

「んーと、滋養強壮に効く生薬に干し金魚草の粉末に曼珠沙華の根、マムシの抽出液を乾燥させたもの少しと高麗人参とかの人参を十種類に海狗腎とか諸々…」

「後半完全に息子が元気になる薬じゃないですか!」

「そ、そうだけど…!でもその効果は他の材料の副作用で効果が相殺されて無くなるはずなんだよ」

「でもこんなになってますけど。しかも貴方、この薬作るのに一ヶ月くらいかかってましたよね」

「う、うん…」

「それがこれって…スケベ薬剤師がとうとうヤブ薬剤師にまで堕ちましたか…」

「そこまで言わなくてもいいじゃないか…」

しかしなんてことだ。この僕が失敗するなんて有り得ない。
確かに後半入れたものは息子が元気になる効果があるけど、この調合なら副作用は相殺されて目が冴えて疲れが取れる効果だけになるのは間違いないはずなんだ。
理論上間違ってないのに煮詰めすぎたか材料が何か多かったか足りなかったか。しかし考えても思い当たるものがない。
とうとう薬の調合も失敗するほど爺になってしまったのか。このままでは職業を失ってしまう。

「はあ…本当に貴方という人は…」

鬼灯は溜め息を吐くとサイドテーブルに置いたコップを持った。
そのまま残った薬を一気に口に入れ、何をする気だと言おうとする前に僕を押し倒した。

「ん!?っ、っう、んぐ…っ」

鼻を摘まれ堪らず口を抉じ開けられると、口の中にさっきの苦味が入ってきた。
吐き出そうとしたけど苦味にえずいてしまい、喉に落ちていった。

「げっほ…!おま、なんてことしてくれたんだ!」

「こうなった以上道連れです。今夜はとことんヤりまくりますよ」

「ヒィイイ…!」

なんてことだ。お互い精力剤を飲んでしまうなんて展開、BL漫画でもそうないぞ。
鬼灯は僕の白衣と三角巾を剥ぐと床に投げ捨てた。

「はあ…なんだか熱いですね。もう全部脱いじゃいましょうか」

「ええ…っ」

鬼灯は帯をほどくと襦袢も股引も脱いで床に置いた。
鬼灯が始めから脱ぐなんていつ以来だろう。いつも僕だけ脱がされて鬼灯は着たままってことばかりなのに。

「白澤さんも脱ぎましょう。じきに熱くなりますよ」

「そうかな…」

「はい、バンザーイ」

そう言われるとなんだか顔が熱くなってきた気がする。
言われるがまま両手をあげて上を脱がされて、一度軽くキスされた。
それだけなのに、胸が息苦しいような鼓動が大きいような妙な感覚だ。
あと、下半身がもぞもぞする。様子がおかしい。
異変に気付いた途端、下も剥かれて露になった下半身に目をやる。

「あ、あれ…」

「なんという即効性…」

すごい勃っちゃってる。興奮してるのがバレバレじゃないか。
最初からお互い裸でしかも両方とも勃ってるのが丸見えって、今からヤる気満々ですって感じがして凄くいやらしい。
しかも薬の効果なのか、徐々に身体や顔がぽかぽかしてきた。

「なんか身体熱くなってきたかも…」

「やはりそうですか。私は目が冴えてきましたよ」

目が冴える効果はちゃんと生きているらしい。
僕はそもそも疲れていないから疲労回復効果の方はどうなるのかわからないが、ここまで即効性があるって副作用すごそうだから後が怖い。

「さて、さっさとヤりますか」

「う、うん…」

会話がまるで片付け仕事のようだ。雰囲気もなにもあったもんじゃない。
鬼灯は僕を組敷いて首もとに顔を埋めた。
背中に手を回して密着すると鬼灯の身体が熱いのがよくわかる。
撫でるように腕や背中に手を這わせたら、鬼灯は息を震わせた。

→→→