※千歳が浮気性です。




部室の窓から見えるアジサイが、綺麗な色をしていた。
どれも違う色をしているのは、土壌の酸性度の違いによるものだと、以前、図鑑で読んだことがある。
色が変化するためか、毒草でもあるアジサイの花言葉は、移り気、浮気、それから辛抱強い愛情などだ。
なるほどな、と妙に納得したのを覚えている。





紫陽花みたいなひと





千歳は、すぐに心変わりする。
気紛れで付き合った女の子は何人いたかわからないし、セフレだってきっと年上から年下まで山ほどいると思う。
こいつのせいで、何人の女の子が影で泣いているのだろう。
しかも本人に悪意はないから余計にタチが悪い。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
そうしていたら関係をもってしまった女の子がいつの間にかたくさんになっていたと、千歳は言っていた。
俺も、所詮その中の一人だ。
誘ったのはどちらからだったか、部員のいなくなった部室でキスしたのが始まりだった。
複数人と関係を持つのは、ただの欲求不満なのか、それとも寂しがりなのか、それが知りたくて近づいたのに、いつの間にか身体を重ねる関係にまでなってしまって、俺ばかり沼に浸かるようにはまってしまっていた。

「白石…、」

それでも俺は、最中の少し荒い吐息混じりに名前を呼ぶこの声が好きだ。
こんな最低な男でも、その瞬間だけは真っ直ぐ俺だけを見ていると確認できるから。
自分だけは違う。そう思ってこいつにはまる女の子の気持ちが少しわかった気がする。

「あ、はぁ、ちと、せ…っ」

「白石ん中、よかとよ…」

「んっ、あ!」

あの時と同じ誰もいない部室で、机にしがみついた俺は後ろから千歳に補食される。
ただ違うのは、今日は雨で部活が中止で、千歳とこうするためにわざわざここに来ているということだ。
いつもは練習の後にすることが多く、部活の無い日に呼び出されるのは珍しかった。
今日予定があった女の子に振られたのだろうか。

「はあ、あ、ちとせ…も…はげしくして…」

「ん…白石はキツいの好きばいね」

「う、ん…、こえ、おさえるから…あ!んあッ!まっ、ああッ!あぁああ…っ」

口を塞ぐためのタオルに手を伸ばすも、届かないうちに千歳は激しく侵食してきた。
入り口から奥の方まで、満遍なく中を擦りあげられ、喘ぎ声は我慢できずに部室に響く。
誰かに聞かれたら、と過ったのも一瞬で、いっそ聞かれてしまえばいいと更に煽るように声をあげた。

「ちと、せ…っ、あッ、きもち、え、あ、あ、いい、あ、ひッ、あ…っ」

「ん…ッ、おれも、」

「あッあッ!んあっ、ん…っ!ああ…ッ、」

男相手なんて初めてだったのに、今ではもうすっかり気持ちよくなってしまった千歳とのセックス。
荒くて時折痛くて、あっという間に終わってしまうけれど、女相手にはできないような乱暴な抱き方をされるのは嫌いではなかった。
そう思うのは、恐らく独占欲が満たされるからだろう。

「白石、好いとうよ…」

「んっ、おれ、も…、あッあッ」

何回キスしても、何回身体を重ねても、本当の意味での「好き」は手に入らないのに、独占しようなんて馬鹿げているとは思う。
なのに、俺だけが違う抱き方をされるのが嬉しいと、身体が反応を返してしまうのが悔しい。

「なか、しまったと…」

千歳はそう呟くと、動きを緩くした。
中に入っているものが、痙攣してまた一回り大きくなったのがわかる。
どうやら余裕がなくなりつつあるらしい。

「ん、は…っ、も、げんかいなん…?」

「んー…」

「おれ、は…っ、ん、まだ、したりひん、の、やけど…」

「ふふ、白石がそう言うなら、もうちっとだけ楽しませてもらうばい」

「ん…、んああっ!あっ、はあ、そこ、いい、ちと、せぇ…っ」

千歳が律動を再開させると、小休止の後の急な快感に身体が大袈裟に震えた。
背中に甘い痺れが走り、いよいよ何も考えられなくなる。
外の雨の音も、全く耳に入ってこない。

「はあ、はあ…、」

「あ、はあ、んっ、う、はあ…っあ、」

声を出すのが辛く、徐々に吐息しか出なくなる程、疲労が蓄積されてきた頃。
突かれては止まるのを何回も繰り返され、そろそろ俺も限界が近づいてきた。
俺の腰を支える千歳の手に力が入ると、もう終わりだなと察する。

「あ、んぅ、んんっ!ああ、あぁ、」

「白石…なかで、よかと…?」

「ん…ええ、よ…っ、あ、あっ!なかに、だして…っ」

千歳の動きが更に激しくなると、俺も中を締めて精液を受けとる準備をする。
これも、女相手なら薄い壁に隔たれてできないことだから。
吸収はできないけれど、熱を感じることができるだけで特別になれたと錯覚する感覚が心地よかった。

「しらいし…っ、なか、だすばい…っ」

「ふああッ!あん、きてっ、あ、だして…っ、あ、ああっ」

「…ッ」

「あ!あぁあっ!」

一番奥に千歳の精液が注がれて、その熱さを感じながら、俺も絶頂に達した。
終わらないで、まだこうしていたい。
達して脳内が真っ白になる直前、そんな言葉が思い浮かんで消えた。




「沼に咲くアジサイって何色なんやろな」

「んー?」

「なんでもない。一人言や」

衣服を整え、部室を片付けていると、そんな疑問がぼんやり浮かんで口にしていた。
千歳は、ふーん、と気にする様子もなく椅子を元の位置に運んだ。

「にしても、白石はよく俺のとこきてくれるとね?」

「ああ…せやなあ…」

期待させて、落として、悪意のない傷つけ方をする千歳に、自分でもよく関係を続けられるなと思う。
呼ばれたら断れないのは、もはや癖というか、ある種、条件反射みたいなものだろう。
後は、何人もの女の子を相手にしていても、俺のところに来るから。
一人に決めるまでは、俺が付け入る隙を与えてくれているから。
今はそれでいい。
沼から抜け出せなくても、隙があるのなら、今はそれでいい。
でも、もし、もしその隙が埋まってしまったら。

「……千歳が好きやから」

いやだ。
そんなのいやだ。
だからどうか、離れないで。
捨てないで。
そんな意味を込めた俺の言葉を聞いた千歳は軽く笑い、頬を撫でてきた。
俺はその温かい手にすりよって、いつ離れるかもわからない体温を、身体に染み込ませるように感じていた。

窓から見える部室裏のアジサイは、雨に濡れてそれはとても綺麗だった。










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2015.6.28
日記ログより加筆しました。
6月滑り込みセーフ!


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