正解のない問題



その日は、なんだかイライラしていた。
練習が上手くいかなかったとか、小テストの結果が悪かったとか、眠いとか、そもそも雨だからとか、理由はよく分からなかったけれど、なんだか機嫌が悪かった。

「あ!トビオちゃーん!」

「?…あれ、及川さん?」

そんなとき、偶然、駅の出口で及川さんに会った。
俺を見るなり、及川さんは眩しい程の笑顔でこっちに向かってきた。
なんだか、すごく久しぶりに顔を見た気がする。

「偶然だねー!今帰りー?ひとりー?」

「…ッス」

「俺もひとりー」

「あ、はい、」

下を向きながら無愛想な返事をすると、及川さんは一瞬黙って、唇を尖らせた。

「なーんかトビオちゃん機嫌悪いー?」

「えっ…いや、そんなこと…」

「やっぱりねー。俺すごいね!トビオちゃんのことなら何でも分かっちゃうんだね!」

俺、トビオちゃんのブリーダーになれるよ!
と、否定する前に楽しそうに笑って、及川さんは俺の顔を覗き込んだ。

「そんでもって、なんで機嫌悪いのかも、なんとなーく分かるね」

「えっ」

「当ててみせようか?」

「!…は、はい…」

「んとねー、トビオちゃんさ、」

「はい」

及川さんは言いかけて、一瞬俺の顔を見てニヤリと笑った。
嫌な予感。

「……やっぱやめたー。これはトビオちゃんが自分で言うべきでしょー」

「は!?」

及川さんは、面白いオモチャを見つけたかのように、そう言ってフラフラ歩き出した。
はっきりいってイラッとした。
俺だって原因がよく分かっていないのに、なんで及川さんに分かるんだ。
当たってるのか間違ってるのか分からない、正解のないクイズみたいなものなのに。


「言ってほしいー?」

「…はい」

「やだねー!」

「……」

なんなんだこの人は。
一緒にいると余計にイライラしてくる。
こういう人だってわかってるけど、それでも心底ムカつく。
たった今、俺が機嫌悪いのは間違いなく及川さんが原因だ。
それだけはハッキリ分かる。
どうしたものかと考えていると、及川さんは、クルッと俺の方を向いた。

「あはは!怒ってるねー。じゃあ、そろそろ言ってあげようかな」

「はい」

「一緒に帰ろう?」

「え…」

「せっかく久しぶりに会えたし、ね?」

ぱん、と傘を開いて、及川さんは意地悪に笑った。
ああ、そっか。
俺が機嫌悪かった理由が分かった気がした。
でもそれが正解かというと、少し違うような、惜しいような。

「ほら、トビオちゃん!相合い傘!」

「…肩、濡れますよ」

「俺は大丈夫だよー。でもトビオちゃんだけ濡れちゃうかー」

「えっ!俺ちょっとしか入れないんですか!」

「後輩なんだから当たり前でしょー?入れさせていただくんだからー」

「…相合い傘って、傘半分こするもんですよね?」

「うーわ、トビオちゃん生意気ー!」

渋々傘の中に入ると、案の定、俺は半分も入れないどころか頭しか入れてもらえず、肩は濡れるわ鞄は濡れるわで最悪だった。
でも、何故か自分の傘を開くことはしなかった。
少し歩き始めたところで、及川さんが俺の頭をクシャクシャ撫でた。

「来週、泊まりにきなよ」

「…来週ですか?」

「うん、来週の日曜日ね」

「………はい」

何かいいイタズラでも思いついたように笑う及川さん。
俺、この人には一生敵わないと思う。


――――――
2013.9.27
及影が!えろすぎて!衝動的に!
及川先輩がトビオちゃんをねちっこくイジメる続き

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