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(み、水こわい…!)

こんなん今まで思ったこともない。
でもなんでか知らんけど水が恐い。

「や、やや!シャワーいやや!」

「あ、こら暴れたらいかんばい」

こいつ、楽しんどる!
逃げようとしたら千歳に取っ捕まえられて、すっかり温まったシャワーを身体にかけられた。

「ひゃあっ!?」

な、なな、なんやこれ。
ぞわぞわする。
あったかいお湯が気持ちいいのは同じやけど、いつもとちゃう。
背中が、びくびくして、へん…っ

「う、あっ、ひ、んん、んっ」

「ほーら、おとなしくしなっせ」

「ふあっ!やぁ…っ、尻尾はかけたら、あか、あっ、」

ぞわぞわして変な感じが全身に広がる。
やっとお湯が止められたかと思ったら、今度はシャンプーのターンが待っとった。

「よーし、シャンプーせんね」

猫専用シャンプーと書かれたボトルから出てきた液体を泡立てて、身体に塗られる。

「わっ!なっ、なんやねん!」

ぬるぬるして気持ち悪い!
おまけにいろんなとこ触られまくって気分は最悪。
のはずなのに、

「あっ、う、そこはあかんて…!さわらんといて!あっ、あっ、」

下の方触られると、ちょっと、ちょっと…気持ちいい…。
ただでさえ大きい千歳の手が、更に大きいから、全身を両手で包まれとるような感じがする。
全身撫で回されて、気持ちいいやら、ぞわぞわするやら、ぬるぬるして気持ち悪いのは相変わらずだわで、もう頭がぼーっとしてくる。

「や、あっ…は、あぅ…」

「ここもキレイにせんとねー」

「んんー!や、あっ、あっ、」

ちょっ、どこ触っとんねん!この変態!
あっ、ややっ、そんなとこ!

「あぅ…、はぁ、はぁ…」

「よし、シャワーするばいねー」

「うひゃう!」

またシャワーがかけられて、すっかり石鹸の匂いに包まれた。
疲れた…もういやや…。

「はい、キレイになったとー」

やっと解放された…。
風呂場のドアが開くと、俺はすぐに脱衣場に飛び出した。

「よしよし、いい子」

千歳はタオルを広げて俺の身体を拭いた。
それは割と気持ちよかった。
せやけど、まだこの地獄は続くのやった。

「よーし、次は乾かさんとねー」

まっまだあるんか!
もしや、ドライヤーか。
想像しただけでもう嫌悪感しかない。

「千歳、自然乾燥でええよ!」

「こらまた暴れて…風邪ひいたら大変ばい」

「いややー!」

また抱きかかえられ、千歳の部屋に運ばれる。
俺は必死に暴れたけど、がっちりホールドされて逃げられへん。
千歳はせっせとドライヤーを準備して電源を入れた。
ブォオーって音とともにドライヤーから風が吹き出す。
恐い!ほんまに恐い!
シャワーより恐い!

「ちょっとこれは無理やって!むっちゃ音しとるし!」

「よーし、いくばい」

「うわあ!ややっ!こわいって!ひゃあ!」

風が頭にあたった途端、俺は飛び上がるほどびっくりして、すぐに部屋の隅に逃げた。
こここ、こわい!
シャワーも無理やったけどこれはもっと無理!

「風邪ひいたら大変ばい、ね、いい子にしてほしか」

「いやいやいや!風邪ひくのもいややけど、これはそれ以上に無理やって!」

むっちゃ身体震えとるんがわからんのかこいつは!
怯えまくっとるやん、俺!

「ほら、恐くなかとよー」

「ふああ!?ひ、あっ、みみ…っ、いややぁ…っ」

また温風が耳やら背中やらにあたって、俺は逃げた。

「ほーら、後で猫じゃらしで遊んであげるばい、いい子にしてほしかー」

「そんなんいらんわ!ひあ…ッ!」

「あ!逃がさんばい!」

「いややー!」

もういやや、風こわい…!
だいたい乾いたって!
もうええのにー!
そんなこんなで、風が当たる度に俺は逃げてドライヤー持った千歳が追いかけてきて、を繰り返して、なんとかほぼ乾いた。

「まあ、こんなもんでよかとかね、よく頑張ったばい」

ようやくドライヤーの風が止んで頭を撫でられ、ほっと一息。
やっと終わった…やっと解放された…。
もう疲れきって身体がだるいし眠い…猫って大変なんやな…。
俺はフラフラとまた布団の中に潜りこんだ。

「あ、今から遊ぼうと思っとったのに…」

「やかましいわ…もう疲れた…おやすみ…」

「…そんなら後で遊ぶばいね、おやすみ」

「ん…おやすみ…」

布団の中は千歳の匂いがいっぱいしとって、まだ温かくて、それだけは妙に安心できた。





チュンチュン…

鳥の鳴き声がする。
もう朝か、でもまだ眠たいし毛布あったかいし寝とりたい。
って俺、猫になっとるんやった!
バッと布団をどけて身体を起こし、自分の腕を見た。

「に、人間に戻っとる…!」

よかったわほんま、人間やあ…。
自分の腕やら足やら見とったら、横でまだ寝とる千歳が目を覚ました。

「謙也…寒かぁ…」

「あ、ああ、すまん」

落ち着いたらまだ朝の6時で寒いのに気づき、俺はまた横になって布団をかけ直した。

「謙也、深夜にうなされとったとよ?」

「え、ほんまに?」

「うん。恐い夢でも見たと?」

夢…?
ああ、今まで俺が猫になっとったのは全部夢やったんか。
そういえば猫用のシャンプーもあるの見たことあらへんな。
よく考えたら夢に決まっとるやんか、なんであない焦らなあかんかったんや…。

「あー、俺さっき猫になる夢みたんやけどな」

「謙也が?それはむぞらしかねー」

「お前にシャワーされて大変やった」

はは、そげん夢見たと?なんて千歳は笑っとる。
いやほんま大変やったんやで、色んな意味で。

「あれ、謙也、そういえば昨日お風呂入ってなかったばいね」

「うん?…ああ、そういえば…あのまま寝てしもたな…」

昨日、まあ泊まったからには当然のようにやることやった後、疲れ果ててそのまま寝てしもたんやった。
冬に朝風呂って身体冷えそうなんやけど、どうなんやろ。
やっぱ夜入っとくんやったな。

「ね、後で一緒に入ればよか」

「…え、…一緒はいやや」

「ええー?なしてー」

さっき見た夢からして、嫌な予感しかせえへん。
あれは、もしや、ある種の予知夢っちゅーやつやったかもしれへん。
それやったら、ここはこれから起こるであろうお風呂場でやらしいことされるのを回避するのが賢い選択や。

「もしかして謙也が見た夢、石鹸でぬるぬるえっちしたかったから見たかもしれなか…」

「やかましいわ!」

断じて!そんなことをしたい願望が夢になったんやない!
それはむしろこいつの願望や。
せや、風呂場で石鹸&猫語プレイしたいっちゅー、こいつのマニアックな願望が夢に出てきたんや。

「えー、楽しそうばいーしたかー」

「いややって!もう俺先に風呂入るわ!」

「謙也ぁーさみしかー…」

甘えた声でそんなこと言う千歳は置いといて、俺は布団を出て風呂場に向かった。
さっさと洗ってさっさと出よう。
いやーおっかない夢見たけど、まさか予知夢やったとはなぁー。
最悪な夢やったけど助かったわー。
フラグ回避っちゅーはなしや!



しかし、この時の俺は、風呂場に鍵がないことをすっかり忘れとって、後から乱入され結局フラグ回避できんっちゅーことを知らんのやった。















――――――
2013.2.22
茶とらって可愛いですよねー。
ちなみに、ぬこ飼ったことありませんので細かいツッコミは…夢オチなので許してください(笑)
お風呂で石鹸+猫語ぷれいとかメニアック(笑)


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