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*謙也が猫化





猫はお好き?





チュンチュン…

鳥の鳴き声がする。
もう朝か、でもまだ眠たいし毛布あったかいし寝とりたい。
今日やらなあかんこととかなかった気するしなぁ…部活も休みやし。
あ、せやった、せやからあいつん家に泊まりにきたんやった。
うっすら目を開けると、当然よく見知った顔があってもう起きとった。
俺よりはよ起きとるなんて珍しいて思ったけど、ただそいつは、きょとんとしたような顔をしとって、なにに驚いとるのかわからんかった。

「おはよ…千歳…」

「に、にゃー?」

「……なんやねん、にゃーて…」

意味がわからん…そんな猫語みたいなのはいつも可愛がっとる野良猫たちと戯れとるときだけにしとき、って言おうとしたら、千歳は身体を起こして俺を抱き上げた。
…抱き上げた?
ちょ、ちょっと待て、俺身長170は余裕であるのになんで抱き上げられたんや、ちゅーか床近い。
千歳座っとるのに抱き上げられてこの床の近さはおかしい。
俺の身長1メートルくらいってことになるで。
俺が混乱しとると、千歳は俺を膝の上に乗せて頭を撫で始めた。

「むぞらしか猫さんばいね、どっから入ってきたと?」

どっからって昨日から泊まりにきとるんやから玄関からや。
その前に猫さんてなんや、猫さんて。
意味がわからん、千歳ついに頭の中がお花畑通り越してメルヘンになってしもたんか。

「千歳、なに言うとるんや、俺は猫さんちゃうで」

「ん?そっか、寒かねぇ…泥もついとるし、あとでお風呂入れてあげると」

に、日本語が通じない!
なんちゅーこっちゃ、いよいよヤバいでこれは。
はー、もうどないしたらええんや…。

「しっかし猫さん、綺麗な茶とらばいねぇ…野良とは思えんばい」

茶とら?野良?
やっぱりなに言うとるのか理解でけへんかったんやけど、俺はすぐにその意味を理解した。
何が野良の茶とらなのか自分の腕をみると、

(も、もふもふしとる!)

そこには、獣の毛がもふもふに生えとった。
なにがなんだかわからんくて自分の身体をみると、やっぱりもふもふ生えとって、しかもそれは犬か猫のような手やった。
え、ちょ、どういうことや。
俺もしかして人間やない?

「千歳、俺の身体なんや変なんやけど!」

「え?ああ、はよお風呂行こかね」

「はっ?お、おいなんやねん!」

千歳は俺を抱きかかえて部屋を出た。
抱きかかえられるって、やっぱおかしい。
明らかに俺、千歳の腕に収まっとるよな。
そういえば風呂場の近くの歯磨きするとこに鏡あるやん、まずそれで自分の姿を確認しよう。
頭ん中かぐるぐるしとる間に、とりあえずお風呂場についた。
けど、この向きじゃ見えへん。
俺の顔は千歳の左側にあるけど鏡は右にあるから反対や。

「千歳、鏡みたいんやけど!」

「んー?」

「反対向けてや!」

「お風呂は嫌いと?ばってん外におったならキレイにせんといかんばいね」

「ちゃう!外におらんし昨日ヤってそのまんまやんか!ってちゃうわ!」

「ほら、お前さんこんなキレイな色しちょるのに、もったいなかとよ?」

千歳は鏡の方を向いた。
よし、ナイス!と思うのも束の間。
そこには、千歳に抱きかかえられたキレイな色した茶トラ…俺がおった。

(ほんまに猫になってしもたんか…)

絶望や…。
朝起きたら猫になっとるとか、なんでこないなことになったんや。
猫をいじめたりとかしたことないし天罰とかそんなんはありえんはず。
まあ、いつも千歳に遊んで貰って可愛がってもらえるその辺の猫に嫉妬したことがあるかといわれたら…ごにょごにょ…せやけどなんも悪いこととかしたことないし、自分が猫になるようなことをした覚えがない。

「キレイにしたら、後でいっぱい遊んであげるばい」

頭ん中ぐるぐるで混乱しとる俺のことなんか知らずに、千歳はのんきにそう言いながらジャージの裾を捲って浴室に入った。
俺をタイルの上に降ろし、シャワーのジャグジーをひねった。
まだ温まっとらん水がそこから出てきた。
途端に、身体が震えて、シャワーから出てくる水に嫌悪感を抱いた。

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