5.どきどき、はらはら





蔵が家に来る。

(大変なことになってしもた!)

ノート見せてもろたお礼やのに、そんなんでええんか。
なんで俺ん家に来たいなんて言うたんや。
考えれば考えるほどわからん。
それに、蔵が家に来るのは三年になってから初めてや。

(もしまた、されたら…)

なんて。
どうしよう、どうしよう。
いや、期待したらあかん。
昼ご飯ときやって、してこおへんかったやんか。
そんなん、ありえへんて。
蔵やって俺のこと好きであんなことしたわけとちゃうし。
あんなん気分でなんとなくしただけやって、本人もそう言うとったし。
で、でも、もしかしたら。
明日は部屋で二人きりやし、誰もおらんし…。
あああ!落ち着かん!

(とりあえず、部屋片付けなあかんわ…)

今からこんなんじゃ当日テンパってまう。
服とか出しっぱなしのもん片付けながら落ち着こう…。





次の日。
部屋の片付けはなんとか終わったけど、やっぱり夜寝れんかった。
期待するだけ無駄やってわかってても、やっぱり想像はしてまうし、おかげで寝不足や。

「謙也、帰ろか」

「あ、うん、」

学校が終わって、俺と蔵は一緒に帰る。
一昨日あんなことがあったのにまだ一緒に帰れとるのが、実は地味に嬉しかったりする。
気まずくなって、もう帰れへんくなったら、とかちょっとは思っとったから。

「なんや今日眠そうやったな。また夜更かしして漫画でも読んどったん?」

「い…いや、なんや寝つき悪かってん」

「ふーん、やらしいことでも考えとったんか」

「なっ!んなわけあるか!俺はっ、く…」

「く?」

あ、やばい、蔵のこと考えとったって言いそうになった。
「く」って言ってしもたし、ごまかさな!

「く、く、クリオネってかわええよな!昨日テレビでやっとってな!飼いたいなーって」

「クリオネって…まあかわええけど飼うの難しそうやな」

「そうなんや、それ考えとったら寝れんかったんや!」

「はは、アホやなあ」

な、なんとかごまかせたで。
危ない危ない。
明日は家に来るっちゅーのに、こんなとこでうっかりバレたら最悪や。

「で、明日は何の科目教えたらええん?」

「え?ああ…初日の社会がええかな。あと化学」

「ん、了解」

そうや、家帰って寝て起きたらもう蔵が家来るんや。
一日って早いなあ…。





帰ってきて、やっぱり寝れんくて、相変わらず俺はベッドでごろごろしとった。
遠足前日の幼稚園児かっちゅーの。

「あ、テーブルないやん」

部屋を見渡すと、キレイに片付けたはええけどテーブルないことに気づいた。
どこで勉強するつもりやったんや。
クローゼット開けたら下のほうにちっこいテーブルがあった。
これでええかな。
と、運ぼうとしたら、

「いっ!って!」

脛にぶつけた。
あかん、睡眠不足で注意力散漫になっとる。
明日、教えてもらうのに寝てまうんやないか。
それはマズイ。
もういい加減、寝なあかんわ。

「よいしょっと、」

テーブルを部屋の真ん中あたりに置いて座布団を二つ置き直す。
明日、ここに蔵が座るんやな。
ってこんなことばっか考えてほんま自分変態やな。
てか、ここに俺が座って向かいに蔵が座るっちゅーことは、これ距離近ないか?
またあのときみたいなシチュエーションになるんとちゃうやろか。
ああもう緊張して変な汗出てきた。
ちゅーか、蔵がこない近くにおるのに寝るとかありえへん。
というわけで、もうちょっとだけ念入りに掃除しとこ。

この「もうちょっと」がまさかほぼ完徹になるとは、その時の俺は思っとらんかった。















――――――
2012.5.15
謙也さんは未だに旅行する前日は寝れない子だといいな!


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