fall down



極寒の中、僕は弥勒のいる事務所に来ていた。
『赤いエレベーター事件』をアプリにする為の取材と、『あねの壁事件』の話を聞きに。
なのに。
どうしてこうなった。

「ミロク…!だめだって!」

「今さら何言ってんだよ」

「だって!僕は取材しに」

「うるせぇよ」

そう言うと、弥勒は僕の口を塞いだ。
息が出来ない。
なんでこんなことをするんだ。
第一、こういうことをする理由がない。
いつも思っていたが、別に僕たちは付き合ってる訳じゃない。
いつからか弥勒がキスするようになって、それから坂を下るように次に発展してしまっただけで。
ああ、何でこんなことになってしまったんだ。

「ん…ぅ…ッ」

苦しい。
いつもより荒いキス。
そのまま僕は力が抜けてしまって弥勒の思うままソファに押し倒された。

「は…ぁ…」

弥勒の手が僕のシャツの下から侵入してきた。
くすぐったい。
それと同時に快感を得た。
僕の弱いところを手で摘まみだしたんだ。

「あッ…やぁ…」

「嫌じゃねぇだろ」

今度は耳を甘噛みしてきた。
性感帯を2つ同時に弄られて、背中がぞくぞくする。
くすぐったいはずなのに、どうして弥勒にされると反応してしまうのか。

「ひ…ぁあ」

声が洩れる、出したくないのに。
だんだん理性が飛んでいくのが分かる。
弥勒の息が、手が、僕をおかしくさせる。
僕が僕じゃなくなる。
だめだ。
何かがそう叫んでいる。
ここで止めに入らなきゃ。
このままじゃ流される。
流されたら、大変なことになる。

「ミロク!!」

僕は弥勒の手を振り払った。
弥勒はびっくりして手だけ退けてくれた。
体勢はそのままだ。
荒い息を整えていると弥勒が先に口を開いた。

「なんだ?早かったか?」

「そうじゃ…なくて!なんでするの…?」

「久しぶりに2人きりになれたからだろ」

「……う…」

僕は、返す言葉がなかった。
そんな目でこっち見るなよ。
止めなきゃいけないという思考が停止してしまうじゃないか。
そんな、僕のこと好きみたいな目をしてそんなこと言われたら、もう。

「したくないのか?」

好きになってしまう。
君に言われたら、否定なんて出来ない。
そうして、いつものように僕は落ちていくんだ。
かつてないほど早く過ぎていく、時間の谷に。
弥勒の作る、時間の谷に。

「………ううん…」

これから、落ちていく。
僕はゆっくり首を振った。



「ひぁ…あぁッ!」

「だいぶ解れたな」

そのままの体勢で、僕は弥勒に着ていたものを、ほとんど剥がされた。
恥ずかしい。
なのになんでこんなに反応してしまうんだ。
自分の体が憎たらしくて仕方がなかった。

「あ、あ、んっ、ふあ、」

「そんなにいいか?」

「違…ぁ…ふぅぅッ!」

指は奥まで入っていて、僕の中を押し広げる。
弥勒は僕のいいところを知っているから、そこだけを執拗に攻めてくる。
その度に声を上げてしまう。
こんな恥ずかしい声、どこから出るのか。
もう羞恥心に押し潰されてしまいそうだ。

「んッ…はぁ…みろ…く」

「なんだ?」

いい歳した男2人が、なんだってこんなことしなくちゃいけないんだ。
付き合ってる訳でもないのに、いつもいつも。
でも、限界だ。
我慢できない。
疼くんだ。
弥勒が欲しいって、脳が、身体が、言うんだ。

「…も…っと…」

言った途端、顔が熱くなった。
いや、身体全部だ。
弥勒は少し笑って僕の足を広げてきた。
この体勢じゃ僕の恥ずかしい部分が全部見えてしまう。
弥勒がそこを見ているのがわかってしまう。
嫌だ。
嫌なのに抵抗出来ない。
なんで。
そんな疑問さえも、弥勒に触れることで忘れてしまう。
違う。
自分の欲望によって、だ。

「入れるぞ」

「ん…ッ」

弥勒のが当てられる。
その衝撃に耐える為、僕は目を瞑った。
怖い。
でも、欲しい。
弥勒が。
今すぐに。

「あぁあ―ッ!!」

無理やり押し込まれてくるそれを受けとめながら、僕の身体は快感を得る。
久しぶりで力が上手く抜けない。
体が言うことを聞かないんだ。
さらに、呼吸が出来ない。

「生王…声大きい」

「あ…あぁッ!む…り…!」

無理だよ。
押さえることなんて出来ない。
弥勒にこんなことされて押さえられる訳がない。

「んぁッあぅッ…あッ!」

最奥を突かれる度、声が洩れる。
僕のそこは綻んで、色んな音がしていた。
卑猥な水音や、そこが弥勒を飲み込んでいく音。
それによって僕は興奮してしまっている。
どうしよう、止まらない。
こんなに気持ちいいなんて。
ふと、弥勒と目が合った。
少し笑っている。

「な…に…みろ…くッ」

「ん?気持ち良さそうだなと思って」

「ッいや…あぁ!!」

更に弥勒が中に入ってきた。
そして突かれる。
痛いのに、気持ちいい。
なんで。
こんな体勢で、こんなことされて恥ずかしいはずなのに。
なんで。
もう訳がわからなかった。

「も…やだッ…やめ…ぇ」

「…やめるのか?」

「…ッ!」

弥勒が動作を止めた。
ひどい。
こんなの、生き地獄だ。
弥勒は、無表情で僕を見下ろしている。
怖い。
逃げられない。
だったら、言うしかない。

「…め…ないで…」

顔を横に背けて言えば、弥勒は頭を撫でて笑った。
あの頃に、戻ったみたいだった。
高校時代の、純粋だった頃に。
ひどい。
やっぱり君はひどいよ。
そう言う途端に変えるなんて。
そんな表情されたら、もっと好きになってしまうよ。

「口押さえてろ」

「うん…うぅ―ッ!!」

口を両手で押さえると、今まで以上に激しくしてきた。
前戯で射精ギリギリのところまでされたお陰ですぐにイッてしまいそうだった。
このまま、落ちていくんだ。

「ふぅ…ッはぁあ!!」

「く…」

「も…だめ…みろく…!」

涙で滲んだ景色の中で、弥勒だけが何故かはっきり見えた。
余裕のない顔だった。
あの弥勒院蓮児にこんな顔をさせているのは自分なんだ。
そう思うと、少し嬉しい。

「あ…も…あぁぁあッ!!」

最後に、一番奥を弥勒が突いてきた。
それによって、僕は溜まっていた精子を大量に吐き出した。
同時に、弥勒が中に射精したのを薄れいく意識の中で感じた。





「ん…」

「おはよ、生王」

朦朧とする意識の中、すぐに僕は状況を理解できた。
腰が痛いし、外は真っ暗だったからだ。
どうやら僕はあのまま寝てしまったらしい。

「あ…服」

おそらく弥勒のだ。
寝てる間に着せてくれたのか。
事後処理は全部弥勒がやってくれたようだ。

「立てるか?」

「なんとか…」

「とりあえず座っとけよ」

僕は体を起こして座り直した。
すると、珍しく弥勒がコーヒーを出してくれた。
飲んでみて分かったが、ちゃんと砂糖が入ってる。
僕が甘党だから気にしてくれたのだろうか。

「どうしたの急に、ミロクが僕に気を遣うなんて」

「悪かったと思ったから」

「なにが?」

「取材、そっちのけでしちまって」

そうだった。行為に夢中ですっかり忘れていた。
当初の目的は取材だった。
でも、もう僕は疲れてしまってそんなことをする余裕がない。

「もういいよ、〆切にはまだ余裕あるし。また今度改めて話を聞きにくるよ」

「そうか、じゃあこれ」

弥勒は机の中から封筒を取り出して僕に渡した。

「なに、これ」

「資料とか、あと写真」

「まとめてくれたの?」

「一応、な」

なんて珍しい。他人のことなんてお構い無しのマイペースな弥勒が今日は妙に優しい。
明日は槍が降るかもしれない。
もはや逆に気持ち悪いくらいだ。
今日の弥勒、なんか変だよ、と僕が言えば、

「お前のためにやっただけだ」

弥勒はそう言ってコーヒーを飲んだ。
僕のため、だって?
なんて、独占欲の満たされる響きなんだろう。
こんなことを言われたら勘違いするじゃないか。
君も僕が好きなのかなって。

「ミロクは、ずるいよ…」

「あ?なんだ?」

弥勒は訳が分からず首を傾げている。
ああもう、恥ずかしい。
こうやっていつも僕は振り回されてばかり。

「……ばか…」

僕は、君の気持ちを知る術もなくまた落ちていくんだ。
弥勒と言う人間の中に。
僕は甘いコーヒーを飲みながら、ふとそんなことを思った。



――――――
2010.5.15
ミロクは言葉にしなくても付き合ってるつもりなんですが、イクルミンはお子様なので言葉がなくちゃ分かんないってゆーのが書きたかっただけ。
年表でいうと2003年2月ぐらいの出来事かな?

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